こちらのYouTube動画のコメント欄に来た質問に答えます。
質問内容
いつも楽しく見ています。音楽理論を学びつつガールズバンドやっています。 音楽理論のお詳しい方に質問があります。
S さん
クリスハートのヒット曲、I love youって曲のDメロ “もう一度思い出して”の”おも〜”のところベースのBと、メロディーのB♭が不協和音になるような気がします。
また伴奏はBm7-5だと思うのですが7thのAとメロディーのB♭、2つの音がダブルでメロディーの音とブツかってる気がするのですが、これは音楽理論上はどういう見解になるのでしょうか?
B♭は♭9thの音ですので経過音的に一瞬当たっても響きとしてはセーフなんですかね? よかったらご解説、お教えいただけるとありがたいです。
原曲: love you – クリスハート
質問の曲、クリスハートさんの『love you』を聴いてみます。
僕の回答
Sさん コメントありがとうございます!
『I love you』、聴いてみました。たしかに結構ぶつかっていますね。
“不協和音”の定義
まず、前提として楽典的な定義ではメジャーコードとマイナーコード以外は大体”不協和音”に分類されます。
したがって、”不協和音”だから使ってはいけない わけではありません。
(むしろ不協和音が全く無い音楽は、それはそれで退屈なものになる気がします。)
次に、たしかにBとB♭は長7度なので不協和音程にはなります。しかし、これだけではそれほど問題が無いと思います。
(たとえば、Maj7コードとかも長7度を含んでいますし。その部分がBm7(♭5)ではなくBm(♭5)ならBmMaj7(♭5)などと解釈すれば良い気がします。)
ただ、この曲は隣り合う3つのピッチクラスの音(B、B♭、A)が同時に鳴っており、”トーンクラスター”になっています。
たしかに、これはSさんが「ぶつかっているんじゃないの?」と感じられるのも納得できます。
正直、僕もやらないかなぁ…とは思います。
とはいえ、最終的には音楽は「聴いていい感じだったらOK」なので、「だからこの曲はダメで間違っているとは言えない」とも思います。
僕なりの音楽理論的な解釈
音楽理論的には、表拍+コードの変わり目でぶつかっているので、「一瞬だからセーフ」と考えるよりも、「ドミナント機能を持つ響きだ」と解釈する方が個人的にはしっくり来る気がします。
この部分の響きはトーンクラスターであると同時にドミナントとしての機能を持っています。
(Bm7(♭5)の持つBとFが増4度音程なので)
したがって、この部分を”ドミナント機能を持つコード”だと解釈すれば、その後Csus4へ行くのは自然な流れです。(BとFペアはCへのドミナントセブンコードであるG7にも含まれていますよね。)
また、(僕の聞き取りが間違っていなければ)Bm7(♭5)部分のピアノのボイシングはAが一番下にあって、メロディのB♭とは離れている気がします。
これが多少濁りを軽減しているのかな…と。
同じ構成音のコードでもボイシングや音色によって感じ方は変わるので、隣り合う半音3つを詰めて鳴らすのとオクターブ離して鳴らすのでは濁り方が違うはずです。
この響きが採用された理由の考察
では、なぜこうなったのか。
考えられる可能性としては…
①登場人物の心情をトーンクラスターで表現した。
失恋ソングっぽい内容なので、失恋の悲しさを表現するためにあえてキツイ響きを入れたのかもしれません。
②ぶつかっているけど、聴いた感じがよかったからそのままにした。
攻めた響きを忍び込ませるのも一興です。
③編曲の際に見落とした。
メジャーレーベルからリリースされているので可能性は低いと思いますけど。
あたりかな…と思います。