以前、こちらの記事で和風曲の作り方や和風感の出し方についてまとめました。
今回は、その中でも和風・日本風なスケールについて、さらに深掘りしてまとめてみました。
和風な曲を作るときなどの参考にしてみてください。
では、いってみよう!(๑˃̵ᴗ˂̵)و
はじめに
スケールの名前について
和風なスケールって、調べてみると…わりと違う構成音のスケールに同じ名前が付いていて「???」って感じなんですよね。
(そのくらいマニアックな分野 + 日本各地で元から名称がバラバラだったのが原因っぽいです。)
したがって、以下にまとめた名前以外にも同じスケールを指す別の名称はあると思いますので、ご了承ください。
スケールの解釈について
以下のスケールの解釈は、あくまで西洋の音楽理論的な視点からまとめた内容です。
伝統的な日本音楽の文脈にはそぐわない内容・表現もあるかもしれません。
たとえば、構成音を畳み直して同じ”スケール“としてまとめた”調子“も、箏(そう)をチューニングする上では異なる分類をされるものもあります。
全てのキーでのスケール構成音を調べたい場合
この記事では、ドを主音にした場合と、調号が無い場合の2パターンのみを紹介しています。
他の音を主音にしたスケール構成音を調べる場合は、こちらのツール↓を活用してください。
12キー全てで様々なスケールの構成音を調べられます。
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スケール・ナンバーについて
スケール名の横にスケール・ナンバーを併記しています。
スケール・ナンバーとは、「”スケールの構成音を12桁の2進数として表した数”を10進数に変換した数字」です。
たとえば、Cメジャー・スケール(ドレミファソラシ)を例に考えてみましょう。
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スケールの構成音を「1」、そうでない音を「0」とすると、メジャー・スケールは「101011010101」と表せますよね。
これを逆に並べ替えます。
並べ替えた「101010110101」を10進数に変換すると「2741」になるので、メジャー・スケールのスケール・ナンバーは「2741」となるわけです。
より詳しくはこちら↓
ヨナ抜き長音階/メジャー・ペンタトニック・スケール
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メジャー・スケールの4番目(ファ)と7番目(シ)を抜いた形になるので、ヨナ抜き長音階とも呼ばれます。
和風曲に限らず、あらゆるジャンルの音楽でよく使われる最もポピュラーな5音階です。
したがって、フレーズの作り方によっては和風感があまり出ない場合があるので、各自研究してみてください。
メジャー・ペンタトニック・スケールのモード
①夏山調子(ヨナ抜き長音階):661
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いわゆるメジャー・ペンタトニック・スケール。
親しみやすく歌いやすいので、童謡などでもよく使われている印象です。
②楽調子/青葉調子/新雁金調子(陽音階):1189
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メジャー・ペンタトニック・スケールを、第2音から捉え直したモード。
陽音階とも呼ばれるよう。
③ブルースマイナー:1321
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メジャー・ペンタトニック・スケールを、第3音から捉え直したモード。
和風なスケール名は発見できませんでしたが、問題なく和風感を醸し出せるモードだと思います。
④乃木調子/水調子(律音階):677
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メジャー・ペンタトニック・スケールを、第4音から捉え直したモード。
国歌「君が代」のメロディは、この律音階を基盤に作られていると言われます。
(厳密に考えると「君が代」はbⅦの音を含むので、Dミクソリディアン・ヘキサトニックスケール(#×1)とも解釈できます。)
⑤マイナー・ペンタトニック・スケール/ニロ抜き短音階/民謡音階:1193
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メジャー・ペンタトニック・スケールを、第5音から捉え直したモード。
こちらも、様々な音楽で使われるペンタトニック・スケールです。
メジャー・ペンタトニック・スケールに似た構成音を持つ調子
中空調子:429
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6音階の「中空調子」は、マイナー・ペンタトニック・スケールに近い構成音・雰囲気を感じる気がします。
陰音階について
陰音階(都節音階とも)には、上行形と下行形があります。
英語版のWikipediaを見ると、それぞれ陰音階の上行形を「Insen Scale」、陰音階の下行形を「In Scale」や「Sakura pentatonic scale」などと呼称しているようです。
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「ミ」が主音の場合、上行形は「ミ-ファ-ラ-シ-レ-ミ」、下行形は「ミ-ファ-ラ-シ-ド-ミ」。
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「ド」が主音の場合、上行形は「ド-レ♭-ファ-ソ-シ♭-ド」、下行形は「ド-レ♭-ファ-ソ-ラ♭-ド」になります。
ただ、メロディック・マイナー・スケール※ほど、上行形と下行形を厳格に区別しないと雰囲気が壊れるわけではないと思います。
※メロディック・マイナー・スケールを下行するときは、通常ナチュラル・マイナー・スケールに変化させる。
陰音階の上行形が使用された曲としては、宮城道雄の『春の海』が有名ですね。
お正月によく聴こえてくるアレです。
一方、陰音階の下行形は古謡『さくらさくら』などで用いられています。
この曲が、「Sakura pentatonic scale」と呼ばれる由来のようです。
個人的にはどちらかと言えば、下行形の方がダークな雰囲気を帯びている気がします。
陰音階(上行形)/Insen Scale
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陰音階(上行形)のモード
①古今調子/半岩戸調子:1187
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陰音階の上行形と全く同じ構成音です。
②Raga Hindol(ラーガ・ヒンドル):2641
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陰音階の上行形を、第2音から捉え直したモード。
このモードには”和風っぽい名前“は見つかりませんでした。
主音に対して3度の音が目立つため、陰音階のモードとしては少し扱いづらい気もします。
“ラーガ“は、インド音楽の文脈でのスケール名称になります。
③半中空調子:421
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陰音階の上行形を、第3音から捉え直したモード。
④二重雲井調子/ロクリアン・ペンタトニック:1129
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陰音階の上行形を、第4音から捉え直したモード。
⑤秋風調子/雲井ペンタトニック/ドリアン・ペンタトニック:653
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陰音階の上行形を、第5音から捉え直したモード。
ジャズの文脈で、雲井ペンタトニックとして使われる場合もあるようです。
陰音階(上行形)に似た構成音を持つ調子
雲井調子:1251
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陰音階の上行形に♭5の音を追加した6音のスケール。
個人的には、陰音階にマイナー・ブルース・ペンタトニックの香りをブレンドした雰囲気を感じます。
半雲井調子:1507
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陰音階の上行形と下降形を合体したものに、さらに♭5の音を追加した7音スケール。
半音が4つ連続しているので、和風感を出すフレージングが難しい部分もありそうです。
陰音階(下行形)/In Scale
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陰音階(下行形)のモード
①平調子/平巾十調子/Hon-kumoi-joshi:419
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陰音階の下行形と全く同じ構成音です。
ちなみに、しばしば海外のミュージシャンが使っている気がする「Hirajōshi scale」というスケールについて英語版のWikipediaによると
Synonymous scales have different names per region of Japan, as well as according to several ethnomusicologists and researchers, which may lead to some confusion.
「同義語の音階は、日本の地域ごとに名称が異なり、また複数の民族音楽学者や研究者によっても名称が異なるため、混乱することがある。」
Hirajōshi scale
とあるので、平調子 と「Hirajōshi Scale」の構成音は必ずしも同じではないようです。
②リディアン・ペンタトニック:2257
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陰音階の下行形(平調子)を、第2音から捉え直したモード。
リディアン・モードを示唆できるペンタトニックなのでリディアン・ペンタトニックです。
主音に対して3度の音が目立つため、陰音階のモードとしては多少扱いづらい気もします。
③ヨナ抜き短音階/エオリアン・ペンタトニック/Hirajōshi/Kata-kumoi:397
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陰音階の下行形(平調子)を、第3音から捉え直したモード。
マイナースケールから4番目(ファ)と7番目(シ♭)を抜いた形でもあります。
④本雲井調子/雲井巾十調子/Iwato Scale:1123
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陰音階の下行形(平調子)を、第4音から捉え直したモード。
陰音階の上行形の第4音をフラットさせたとも捉えられるスケール。
⑤Raga Bhinna Shadja(ラーガ・ベニア・シャジア):2609
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陰音階の下行形(平調子)を、第5音から捉え直したモード。
こちらも主音に対して3度の音が目立つため、陰音階のモードとしては多少扱いづらい気もします。
“ラーガ“は、インド音楽の文脈でのスケール名称になります。
沖縄音階/アイオニアン・ペンタトニック:2225
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琉球音階とも呼ばれる、沖縄の音楽で使われる音階です。
メジャー・スケールの2番目(レ)と6番目(ラ)を抜いた形になるので、ニロ抜き長音階とも呼ばれます。
沖縄音階のモード
もちろん、沖縄音階にも5つのモードは想定できます。
しかし、和風な名称は見つかりませんでした。
(ちなみに、沖縄音階の第2モードにフリジアン・ペンタトニック:395があります。)
おまけ:陰音階(下行形)と沖縄音階の関係
日本の音階と言えど、沖縄音階はこれまで紹介してきた陰音階とはかなりキャラクターが違う響きがします。
元々は外国であった沖縄の歴史から考えても、「キャラクターが違うのは当たり前でしょ」と思うかもしれません。
しかし、実は2つの音階には意外な関連性があります。
主音を中心に、上下対称的に同じ度数で音階を作っていくと…
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この2つのスケールが浮かび上がってくるのです。
つまり、陰音階(下行形)と沖縄音階は逆配列の関係にあるスケールです。
発見したときに「面白い…!」と思ったので紹介してみました。
なぜ、このような関係になっているのか…理由は分かりません。
地理的に近い場所にあるので、なんらかの影響があったのでしょうか。
詳しい理由を知っている方が居れば、是非教えてください!