今回のテーマは、モード(旋法)です。
はじめに
純粋に曲のデータだけを知りたい方は、こちらをご覧ください。↓
また、各モードの全てのキーでの構成音が調べたい方はこちらのページ↓を活用ください。
Q.モード(旋法)とは?
まず、軽くモード(旋法)の説明をします。
基本的に現代の音楽においては、
“特徴的なメロディの立ち振る舞い”によって考えられる音階
をモードと呼びます。(”モダン・モード“とも呼ばれます)
…え?よく分からない?
たとえば、
「ド-レ-ミ-ファ-ソ-ラ-シ–ド」ならハ長調
「ソ-ラ-シ-ド-レ-ミ-ファ#–ソ」ならト長調
のように音階(スケール)は構成音で区別されます。
しかし、一方で
ハ長調と
イ短調
など平行調の関係にあるスケールは、構成音が全く一緒ですよね。
つまり、同じ構成音でも音の使い方で音階が与える印象は変化し得るわけです。
現代の音楽における”モード(旋法)“の概念は、この考え方の延長線上にあります。
僕は、同じ構成音を使って与える印象を細かく使い分ける手段だと捉えています。
代表的なものは、それぞれメジャースケールと同じ構成音を持つ
①アイオニアン
②ドリアン
③フリジアン
④リディアン
⑤ミクソリディアン
⑥エオリアン
⑦ロクリアン
の7つのモードです。
このうち、①アイオニアンがメジャースケール(自然的長音階)と同じスケール、
⑥エオリアンがマイナースケール(自然的短音階)と同じスケールとなります。
※アイオニアン・モードとメジャースケール、エオリアン・モードとマイナースケールの見た目は全く同じです。
しかし、「使い方」や「文脈」を区別して考える場合もあります。
さらに細かいモードについては↓
特性音
モードでフレーズを作るときに重要な概念が「特性音」です。
先ほど説明したように、平行調の関係にあるスケールは構成音が同じなので、適当に弾いても「そのモードらしさ」は表現できません。
そこで、各モードの「特性音」と呼ばれる「そのモードっぽいキャラになる音」を、メロディやコードに上手く組み込み、他のモードとの差別化を図ります。
また、「特性音」と半音で接している音をまとめて「モーダル・フラグメント(modal fragment)」と呼ぶらしく、この響きも”モード感“を出すのに大切です。
曲例をまとめてみた
さて。もう少し詳しく”モードの概念“や”歴史“を深堀りするのも良いですが…
僕が10年くらい前にモード(旋法)の勉強をやり始めた時に思ったのは
「で、それ、結局どんな曲で使われてんのさ?」
でした。
やっぱり、”概念やサウンドの例”だけじゃなく具体的な使用例を知りたくないですか?
ということで!
自分の資料整理も兼ねて、各モードの特徴とともモードを使った曲をまとめてみました!
では、いってみよう!(๑˃̵ᴗ˂̵)و
※紹介する参考曲の多くは、公式の楽譜を確認していません。
大半は、僕の耳で「多分こうなっているだろう」と推測・解釈したものになります。
もしかしたら間違っている可能性もあるので、ご了承ください。
もし、誤りを発見された際は、コンタクトフォームよりお知らせください。
ドリアン・モード
メジャースケールの第2モード。
例:Cメジャースケールの第2モードのDドリアン・モードは「レ-ミ-ファ-ソ-ラ-シ-ド-レ」※赤が特性音
短調寄りの響きを持つモード。
恐らく、最もポピュラー音楽に使用されているモードだと思います。
そのため、実は耳にしている機会も多いと思います。
個人的に、退廃的な情景や脆さ・儚さ…
一方で、アレンジによっては近未来チックな質感を感じます。
ドリアン・モードの提示
特性音である「13thの音」と、マイナーを示唆する「短3度の音」を上手く使うとドリアンっぽさが出る気がします。
コード
「Ⅱm/Ⅰ」、「m add13」、「m6」、「m6/9」あたりがドリアン風味が強く出ます。
コード進行
Ⅱm → Ⅲm/Ⅱ → Ⅳ/Ⅱ
(ドリアンの主音をⅠとして見た場合は、Ⅰm → Ⅱm/Ⅰ → ♭Ⅲ/Ⅰ)
みたいな進行がドリアンっぽさを出せる気がします。
主なドリアン・モードの使用例
Miles Davis – So What
ジャズの巨匠マイルス・デイヴィスの楽曲。
この曲はジャズにモードを取り入れた「モーダル・ジャズ」の代表曲でもあります。
0:36あたりから何度も登場する「ターラッ♪」というフレーズ(Ⅲm/Ⅱ→Ⅱm)が、ドリアン・モードを色濃く示唆する和音です。
複数のドリアン・モードを転調しながらアドリブを展開していますね。
少女時代 – Genie
Bドリアン・モード(#×3)です。
サビ頭の「そうよ この ほしは 思い通り」など、メロディに分かりやすく特性音が組み込まれており、明確な”ドリアンみ“が感じられます。
Simon & Garfunkel – Scarborough Fair
終始ドリアン・モードの退廃的なエモさが感じられる曲だと思います。
ドリアン・モードの曲例リスト
・Spotifyのプレイリスト
・YouTubeのプレイリスト
フリジアン・モード
メジャースケールの第3モード。
例:Cメジャースケールの第3モードのEフリジアン・モードは「ミ-ファ-ソ-ラ-シ-ド-レ-ミ」※赤が特性音
短調寄りの響きを持つモードです。
エスニックな雰囲気や、短調とはまた一味違う暗さを演出できます。
主なフリジアン・モードの関連モード
そして、フリジアンモードは、以下のモードと構成音が近いです。
したがって、個人的には関連するモードと考えても良いのではないか…と思っています。
陰音階
日本のエスニック音階である”陰音階“。
「フリジアン・モードからいくつか音を抜いたもの」と解釈できます。
“陰音階“には上行形と下行形があり、「ミ」が主音の場合、上行形は「ミ-ファ-ラ-シ-レ-ミ」、下行形は「ミ-ファ-ラ-シ-ド-ミ」となります。
ただ、メロィックマイナー※ほど上行形と下行形をそれぞれ上行と下行で使わないと雰囲気が壊れるわけではないと思います。
※通常メロィックマイナースケールを下行するときはナチュラルマイナースケールに変化させる。
フリジアン・ドミナント・スケール
また、フリジアン・モードの第3音を半音上げた、フリジアン・ドミナント・スケール。※
こちらもよく使用されます。
例:Eフリジアン・ドミナント・スケールは「ミ-ファ-ソ#-ラ-シ-ド-レ-ミ」
※ハーモニックマイナーの第5モードです。
日本ではジャズ系の文脈で「ハーモニックマイナー・パーフェクト5thビロウ」とも呼ばれます。
使い勝手が良いいので、もしかするとフリジアンよりフリジアン・ドミナントの方がよく耳にするサウンドかもしれません。
スパニッシュ・フリジアン・スケール
さらには、第3音を両方含むスパニッシュ・フリジアン・スケールもしばしば耳にすると思います。
例:Eスパニッシュ・フリジアン・スケールは「ミ-ファ-ソ-ソ#-ラ-シ-ド-レ-ミ」
※日本ではスパニッシュ8ノートとも呼ばれます。
フリジアン・モードの提示
特性音である「♭9th」の音はもちろん、「5th」と「♭13th」の音も”フリジアン感“に貢献している気がします。
コード
シンプルに考えるなら、「♭Ⅱ/Ⅰ」がフリジアン・モードを提示する和音です。
ただ、関連モードになるとまた違ったコードを選んだ方が「らしさ」が出る気もします。
たとえば、陰音階なら「7sus4」、「sus4(♭9)」などがそれっぽいと感じます。
主なフリジアン・モードの使用例
Kendrick Lamar – HUMBLE.
終始、D#フリジアン・モード(#×5)のピアノリフがバックトラックとして使われています。
Dream Theater – This Dying Soul
フリジアン・モードを主体にした曲です。
たとえば、5:24からのBフリジアン・モード(#×1)のフレーズは分かりやすいと思います。
主な陰音階の使用例
宮城道雄 – 春の海
お正月によく聴こえてくるアレです。こちらは陰音階(上行形)のサウンド。
古謡『さくらさくら』
日本の古謡『さくらさくら』。分かりやすい陰音階(下行形)の響きを感じれると思います。
KHUFRUDAMO NOTES – KEGON
拙作。日本的な雰囲気を出すために陰音階を曲の中に取り入れています。
詳しい解説は、こちら↓
主なフリジアン・ドミナントの使用例
Aimer – I beg you
Cフリジアン・ドミナント(♭×4)を主体に曲が展開されています。
全体的にエキゾチックなサウンドになっていますね。
主なスパニッシュ・フリジアンの使用例
Armik – Gypsy Flame
こちらは、Dスパニッシュ・フリジアン(♭×2)を主体に曲が展開されています。
サウンドも相まって、いかにもスパニッシュな雰囲気を感じます。
Luis Fonsi – Despacito ft. Daddy Yankee
2020年6月現在、YouTubeのMV中で最高(68億回以上)の再生回数を誇るこの曲もスパニッシュ・フリジアンを主体に作られています。
フリジアン・モードの曲例リスト
・Spotifyのプレイリスト
・YouTubeのプレイリスト
リディアン・モード
メジャースケールの第4モード。
例:Cメジャースケールの第4モードのFリディアン・モードは「ファ-ソ-ラ-シ-ド-レ-ミ-ファ」※赤が特性音
長調寄りの響きを持つ旋法です。
個人的に、リディアン・モードからは陰りのある美しさやエピックな響きを感じます。
リディアン・モードの提示
特性音である「#11thの音」と、メジャーを示唆する「長3度の音」を上手く使うとリディアンっぽさが出る気がします。
コード
「△7(#11)」、「add#11」、「Ⅱ/Ⅰ」、「Ⅴ/Ⅰ」あたりが使いやすいはずです。
どれも美しい響きのコードです。
コード進行
Ⅳ → Ⅴ/Ⅳ
(リディアンの主音をⅠとして見た場合は、Ⅰ → Ⅱ/Ⅰ)
みたいな進行が、リディアンっぽさを出せる気がします。
主なリディアン・モードの使用例
Billie Eilish – i love you
冒頭から、リディアンのサウンドを示唆するギターのアルペジオが続きます。
近藤浩治 – サリアの歌
ゼルダの伝説 時のオカリナより。
冒頭の「ファ ラ シ ファ ラ シ」が部分が色濃くリディアンを提示しています。
他にも、モードの発想を取り入れたゲーム音楽は多数あります。
Kiko Loureiro – Dreamlike
冒頭からリディアン風味のドリーミーなフレーズが印象的です。
リディアン・モードの曲例リスト
・Spotifyのプレイリスト
・YouTubeのプレイリスト
ミクソリディアン・モード
メジャースケールの第5モード。
例:Cメジャースケールの第5モードのGミクソリディアン・モードは「ソ-ラ-シ-ド-レ-ミ-ファ-ソ」※赤が特性音
長調寄りの響きを持つ旋法です。
爽やか系でロックとの相性がよく、クラシックロックでもよく耳にするサウンドな気がします。
ミクソリディアン・モードの提示
特性音である「♭7thの音」と、メジャーを示唆する「長3度の音」を上手く使うとミクソリディアンっぽさが出る気がします。
ただ、気を抜くと「メジャースケールのⅤ7っぽいサウンド」に聴こえるので、注意が必要だと思います。
コード
「♭Ⅶ/Ⅰ」が、ミクソリディアンを提示する基本的な和音です。
この「♭Ⅶ/Ⅰ」は、ジャズ系の文脈で「フュージョン・コード」とも呼ばれるⅤ7の代理として使い勝手の良いコードです。
したがって、使うときはフレージングなどでミクソリディアン感の維持を心掛けたいです。
コード進行
Ⅴ → Ⅳ → Ⅰ
(ミクソリディアンの主音をⅠとして見た場合は、Ⅰ→♭Ⅶ→Ⅳ)
みたいな進行がミクソリディアンっぽさを出せる気がします。
主なミクソリディアン・モードの使用例
Coldplay – Clocks
イントロからE♭ミクソリディアン・モード(♭×4)の美しいピアノフレーズが鳴っています。
BTS – Butter
AメロでA♭ミクソリディアン・モード(♭×5)を使用。
ド頭から特性音の♭7th(G♭)を使ったメロディラインです。
ちなみに、Aメロ以外は同主調のA♭メジャー(♭×4)です。
UVERworld – WE ARE GO
サビ頭「We are 動かない 臆病者なんかじゃない」が、Dミクソリディアン(#×1)のサウンドです。
その直後
「We are どこまで いけるか 死ぬまでちょうせん者」が、B♭リディアン(♭×1)
「We are 笑われてもいい」が、Cリディアン(#・♭×0)
「くそったれどもに」が、Cアイオニアン(メジャースケール)(#・♭×0)のサウンド…
といった具合です。
僕の耳が間違ってなければ、「マジか」ってくらい細かくモードを切り替えたメロディメイクになっていますね。
ミクソリディアン・モードの曲例リスト
・Spotifyのプレイリスト
・YouTubeのプレイリスト
ロクリアン・モード
メジャースケールの第7モード。
例:Cメジャースケールの第7モードのBロクリアン・モードは「シ-ド-レ-ミ-ファ-ソ-ラ-シ」※赤が特性音
あえて分類するなら短調寄りの響きを持つ旋法で、かなりダークでミステリアスな質感を感じます。
軸音に対して完全5度の音を含まないので、”モード感の維持”が難しく、使い方の作法も定まっていない印象があります。
メジャースケールの関連モードの中では、最も使いにくく、使われにくいモードでしょう。
ロクリアン・モードの提示
「♭2nd」と「♭5th」が特性音で、「♭5th」が最大の特徴となる音です。
コード
あえて言うなら、「#Ⅳ/Ⅰ」や「m7(♭5)add11」あたりがロクリアンを提示する和音になります。
主なロクリアン・モードの使用例
Dream Theater – Constant Motion
イントロとアウトロのリフに、Eロクリアン・モード(♭×1)が使われています。
ただ、全体的には、フリジアン・モードを主体にした曲です。
たとえば、ギターソロはF#フリジアン(#×2)で始まり、
途中でF#フリジアン・ドミナントっぽくなって、
キーボードソロでEフリジアン(#・♭×0)に転調しています。
Björk – Army Of Me
アイスランドのシンガーソングライター、ビョークの楽曲。
冒頭のリフから、全編Cロクリアンモード(♭×5)と思われます。
こちらの動画で分かりやすく解説されています。
ロクリアン・モードの曲例リスト
・Spotifyのプレイリスト
・YouTubeのプレイリスト
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