今回は、かーなーり気合いの入った記事です。笑
600以上のアーティストの2000以上のメロディを分析した結果をまとめました。
- 分析の動機:”メロディ”を作るのに必要なのは才能やセンスか?
- “メロディ”を分析する
- 同じピッチクラスの変化を持つメロディとは?
- “ピッチクラスの変化”に注目するメリット
- “メロディ”を応用可能な形でカテゴライズする
- 人それぞれ”好みのピッチクラスの変化”がある?
- 最も “メロディ”の冒頭に登場する音 は何か?
分析の動機:”メロディ”を作るのに必要なのは才能やセンスか?
「”メロディ”の作り方」は、いたるところで紹介されています。
「適当に鼻歌を歌ってみましょう」レベルのものから「シンコペーションを使うなど、リズムを工夫してみましょう。」みたいなアドバイス的なもの…
もう少し発展した内容だと「モチーフの展開の方法は…」とか、「コードの構成音から考えると…」
といった内容になり…
さらに発展すると「コードに対して、どんな度数になっているか…」などの細かな分析や、対位法的なアプローチになる印象です。
もちろん、どれも間違っていませんし、学ぶべき重要なものです。
しかし、そういった内容を一通り学んだ後に思ったんです。
- 「本当にメロディを考える時に使えるものはこれだけか?」
- 「あとは、才能やセンスが支配する領域なのか?」
そんなあるとき、ひとつのアイデアを思いつきました。
“メロディ”を分析する
“メロディ”という概念の抽象度を考える
“メロディ”、“ハーモニー”、“リズム”は音楽の3要素と呼ばれ、(特に西洋音楽で)音楽を形づくる主な要素だと考えられています。
そして、作曲では他の曲と同じ “ハーモニー”や、“リズム”を使用しても基本的にOKです。
実際に、“ハーモニー”の場合は「カノン進行」や「王道進行」といった“コード進行” 、
“リズム”の場合は「エイトビート」や「4つ打ち」といった“リズムパターン”
など”定番の型”を使った曲は無数にあります。
では、“メロディ”の場合は?
他の曲と同じ“メロディ”を使用すると「盗作」と言われてしまいます。
「……コイツ…何、当たり前のことを言っているのだ…?(^ω^)」
と思うかもしれませんが…、待ってください。笑
僕は、「この原因は、一般的な“メロディという概念“の抽象度が“リズム”、“ハーモニー”に比べてまだまだ低いためではないか?」との仮説を立てました。
つまり、「他の曲に流用しても大丈夫 かつ 抽象的になり過ぎない丁度よい抽象度で“メロディ”を捉えられないだろうか…?」と考えたのです。
…では、具体的にどうするのか?
僕の出した結論は、
“メロディ”を「ピッチクラスの変化」のみで考える
です。
“メロディ”を「ピッチクラスの変化」のみで考える
“ピッチクラス“とは、「同じ音名を与えられている音の集合」の意味です。
たとえば、ある高さの音を示すとき、「真ん中のド」や「mid2 C」など、オクターブごとの高さを区別した呼び方があります。
一方、”ピッチクラス“で考える場合
“名前が同じ音”は全て同じものとして扱います。(オクターブの関係にある音を区別しない)
すると、(現代の多くの楽曲は12平均律で作られているので)メロディに登場し得るピッチクラスは、
ド | ド#/レ♭ | レ | レ#/ミ♭ | ミ | ファ | ファ#/ソ♭ | ソ | ソ#/ラ♭ | ラ | ラ#/シ♭ | シ |
の12種類だけになります。
そして、一般的な“メロディ”の概念には、“リズム”の要素も多く含まれます。
そのため、そのまま“メロディ”を分類すると組み合わせが膨大になるので、“リズム”の情報は省きます。(同音連打している部分も一つの音として扱います。)
さらに、調(キー)の違いも考えたくないので階名(移動ド)で考えます。
まとめると、“メロディ”を分析するにあたって
- “ピッチクラスの変化“だけに注目する。
- “リズム“は無視する。(同音連打も1音扱い)
- 階名(移動ド)で考える。(キーの情報は無視する)
ことにしたわけです。
では、”同じピッチクラスの変化を持つメロディ”の具体例を見てみましょう。
同じピッチクラスの変化を持つメロディとは?
具体的1(譜面で確認)
たとえば、
こんなメロディ①↑ と
こんなメロディ②↑ があったとします。
従来の“メロディ”の概念で考えると、2つのメロディに共通点は無い気がします。
しかし、先ほど示した条件に則り“リズム”の情報を無視すると、メロディ①は「ファ→ソ→ラ→ソ→ド」、メロディ②は「ラ→シ→ド#→ラ→ミ」です。
そして、移動ドで捉えるとどちらも「ド→レ→ミ→ド→ソ」となります。
つまり、この2つのメロディは両方とも同じ”ピッチクラスの変化”をしている“メロディ”と言えるのです。
具体的2(実際の楽曲で確認)
続いて、実際の楽曲を例に挙げて確認してみましょう。
藤井 風 – 優しさ
藤井 風さんの『優しさ』の歌い出し
「今何を…」のメロディをピッチクラスの変化だけで捉えると「レ♭→ミ♭→ファ→レ→シ♭」です。
キーはB♭m(♭×5)なので、階名に直すと「ド→レ→ミ→ド→ラ」ですね。
中島美嘉 – ORION
一方、中島美嘉さんの『ORION』冒頭の歌い出し
「泣いたのは…」のピッチクラスの変化は「ファ#→ソ#→ラ#→ファ#→レ#」になります。
キーはD#m(#×6)なので階名に直すと「ド→レ→ミ→ド→ラ」になります。
米津玄師 – Lemon
米津玄師さんの『Lemon』の歌いだし「夢ならば…」もG#mキー(#×5)でピッチクラスの変化は「シ→ド#→レ#→シ→ソ#」なので、階名で表すとこちらも同じく「ド→レ→ミ→ド→ラ」になります。
ずっと真夜中でいいのに。- 暗く黒く
また、ずっと真夜中でいいのに。の『暗く黒く』の歌い出し「触れたくて…」もCmキー(♭×3)で「ミ♭→ソ→ファ→ミ♭→ド」なので階名で表すとやはり「ド→レ→ミ→ド→ラ」になります。
したがって、例として挙げた4つの部分は全て同じ”ピッチクラスの変化”をしている“メロディ”と考えられるわけです
“ピッチクラスの変化”に注目するメリット
さて。“メロディ”を「ピッチクラスの変化で捉える」という視点を、ある程度はご理解いただけたかと思います。
つまり、ピッチクラスの変化に注目すれば「本来関連性を見出せなかったメロディの共通点を可視化」でき、「メロディを応用可能な形で分類」できるのです。
何より最大のメリットは、よさそうなピッチクラスの変化を自分の作曲にも使用できる点でしょう。
もちろん、参考にしたピッチクラスの変化を持つメロディと似た符割りやアレンジで使えば盗作っぽくなります。笑
しかし、同じ“ピッチクラスの変化”を使っても、変化を加えられる部分(リズムやコード進行、ハモリの付け方など)は無数にあります。
“リズムパターン”や “コード進行”と同じように、他の曲と同じものを使っても工夫すれば明らかにパクリとは呼べない強度の“メロディ”になるはずです。
実際、具体例として示した同じピッチクラスの変化を持つ“メロディ”たちは、一般的な“メロディ”の抽象度で捉えれば、「同じだ」とは言えないでしょう。
この方法は本当に”使える”のか?
とはいえ、先ほどはたまたま同じピッチクラスの変化を持つ曲を紹介しただけです。
12種類のピッチクラスで想定できる音の組み合わせは、単純に考えると2音で132通り、3音で1452通り…4音の時点で1万5972通りです。
「…じゃあ、結局このやり方で分析しても大変じゃん!だって、1セクション中でも10回以上ピッチクラスの変化が起こるのが普通でしょ!」と思うかもしれません。
しかし、“メロディ”はアタマの部分(モチーフの冒頭)の流れがとても大切です。
むしろ、“メロディ”の先頭の数秒の流れが、聴衆の心を掴めるかどうかの分水嶺と言っても過言ではありません。
そもそも、長いメロディであっても実際は細かいモチーフを繋いだり変形させたりして作られている場合がほとんどです。
その部分を抽象化して分析できるだけで価値があると思います。
ちなみに
ちなみに、ネタばらしをすると先ほど例に挙げた↓このメロディ①は、
木村弓 – いつも何度でも
映画『千と千尋の神隠し』の主題歌、木村弓さんの『いつも何度でも』の冒頭「呼んでいる…」のメロディです。
一方、↓こちらのメロディ②は
KHUFRUDAMO NOTES – KEGON
拙作、KHUFRUDAMO NOTES『KEGON』のサビ頭(1:19~)のメロディです。
この2つのメロディを結び付けてもパクリとは呼べないでしょうし、実際に僕自身も、この2つのメロディの”ピッチクラスの変化“の類似に気付いたのは、曲を作った後です。笑
※KEGONの楽譜(スコア譜・総譜)は、こちら↓からダウンロード可能です。
KEGON – Music score(pdf)“メロディ”を応用可能な形でカテゴライズする
というわけで
この”メロディ”の”ピッチクラスの変化”に着目するアイデアを使ってメロディの分析をしてみました。
具体的には、自分が印象に残っているメロディを中心に600以上のアーティストの2000以上の”メロディ“の”ピッチクラスの変化“を記録して、そのデータを分析しました。
以下では、それらのデータを分析して分かってきた「“メロディ”の法則や傾向」をまとめています。
では、いってみよう!(๑˃̵ᴗ˂̵)و
※以下では特に断りが無い場合、「ドレミ…」は全て階名(移動ド)の意味で使っています。
人それぞれ”好みのピッチクラスの変化”がある?
分析をすすめていくと
- 同じアーティストの曲
- 影響を受けたと公言しているアーティストの曲
- 同じシリーズのアニメやドラマの主題歌
といった間で、似た”ピッチクラスの変化“がしばしば見られました。
それぞれ、”どこまで意図されているか“は分かりません。
しかし、一聴して気付かない曲がしばしば同じピッチクラスの変化だったのは興味深かったです。
同じアーティストの曲
以下で紹介するのは、ほんの一例です。
King Gnu
2019年大ブレイクしたバンド、King Gnuの楽曲には「ラ→ミ→レ」がよく見られました。
King Gnu – 白日
サビ頭の「真っ新」のピッチクラス変化が「ラ→ミ→レ」です。
King Gnu – 飛行艇
サビ頭、「この時代に飛び乗って」のピッチクラス変化が「ラ→ミ→レ」です。
King Gnu – Prayer X
最初のサビが終わって、G#mキーからE♭mキーに転調しつつ間奏に入ります。
その間奏のメロディ冒頭のピッチクラス変化が「ラ→ミ→レ」です。
Official髭男dism
こちらも2019年大ブレイクしたバンド、Official髭男dismの楽曲には「ソ→ラ→ド」がよく見られました。
Official髭男dism – Pretender
サビ頭の「きみの」、「運命の」のピッチクラス変化が、それぞれ「ソ→ラ→ド」です。
Official髭男dism – 宿命
Bメロ頭の「夢じゃない」のピッチクラス変化が「ソ→ラ→ド」です。
Official髭男dism – ノーダウト
Aメロ頭の「まるで魔法」のピッチクラス変化が「ソ→ラ→ド」です。
ずっと真夜中でいいのに。
音楽ユニット「ずっと真夜中でいいのに。」の曲にも、面白いピッチクラスの類似点が見られました。
ずっと真夜中でいいのに。 – 脳裏上のクラッカー
Bメロ、「なりたい自分と」ピッチクラス変化は「ラ→シ→ド→ラ→ソ」です。
ずっと真夜中でいいのに。 – ハゼ馳せる果てるまで
0:22あたりからのピアノフレーズ冒頭のピッチクラス変化は、「ラ→シ→ド→ラ→ソ」です。
音の流れとしてみると、4,5音目の「ラ→ソ」がオクターブ上なので同じだと気付きにくいですね。
しかし、同じピッチクラスの変化なのでどことなく共通の世界観を感じました。
作曲者が影響を受けたと公言しているアーティストの曲
たとえば、米津玄師さんはBUMP OF CHICKENの影響を受けていると公言しています。
両者の音楽は、そこまで似ているとは思えないものも多いですが…。
米津玄師 – 春雷
ただ、この曲のサビ頭「言葉にする…」のピッチクラス変化は「ソ→ド→シ→ソ」です。
BUMP OF CHICKEN – カルマ
それに対して、BUMP OF CHICKENのこの曲のサビ冒頭、「必ず」のピッチクラス変化も「ソ→ド→シ→ソ」です。
両方とも鉄琴のような音が入っているので、意図された作曲の可能性もあります。
しかし、なかなか興味深いピッチクラス変化の類似ではないでしょうか。
同じシリーズのアニメやドラマの主題歌
和田光司 – Butter-Fly
テレビアニメ『デジモンアドベンチャー』のオープニング。
イントロ(0:06~)のギターフレーズのピッチクラス変化は、「ミ→ファ→ミ→レ→ド→レ→ファ」です。
和田光司 – ターゲット ~赤い衝撃~
一方、続編にあたる「デジモンアドベンチャー02」のオープニング。
こちらのイントロギターフレーズのピッチクラスの変化は「ミ→ファ→ミ→レ→ド→シ→ソ」です。
つまり、『Butter-Fly』イントロとピッチクラス変化が「ミ→ファ→ミ→レ→ド」までの5音で共通しています。
個人的には、こちらの曲は意図的である公算が大きい気がします。
また、同じピッチクラスの変化を使用しても、アレンジ次第で印象が違ってくる好例だとも感じました。
ちなみに、2020年の大ヒットした『鬼滅の刃』の主題歌のピッチクラスにも類似点がありました。↓
最も “メロディ”の冒頭に登場する音 は何か?
さて。いくつか似たピッチクラスの変化をする曲の例を見てきました。
…しかし、ある程度音楽を勉強した人は
「人それぞれに好みがありそうなのは分かったよ。…でも、そもそも多くの音楽は調性に則って作曲されてるよね。移動ドで考えると12種類の音が登場する割合は一定じゃないのは当たり前でしょ。」
と感じると思います。
それは、その通りです。
たとえば、「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ」の音の方が、「ド#/レ♭、レ#/ミ♭、ファ#/ソ♭、ソ#/ラ♭、ラ#/シ♭」よりは多く使われている気はしますよね。
もちろん、その辺りも調べました。
では、ここでクイズです!!(唐突)
“メロディ冒頭“ に最もよく使用されていた音は一体何でしょうか?
答えは、実際に2000フレーズ以上を分析したデータをグラフにしたので、ご覧ください。
答えは「ミ」でした。
「ミ」がメロディ冒頭に来る割合は、全体の約27%。実に1/4以上です。
また、「ド」が約25%、「ラ」が約23%、「ソ」が約15%を占め、
メロディの約90%は「ミ」か「ド」か「ラ」か「ソ」で始まっていると分かりました。
「想像以上に偏りがあるな」と感じられる方も多いのではないでしょうか。
【考察】
長調の主音の「ド」、短調の主音の「ラ」を抑えて「ミ」が多いのには驚きました。
しかし、ダイアトニックコードに対するテンションで考えると、
「ド」はⅢm7、Ⅴ7、Ⅶm7(♭5)のアヴォイド・ノート(使用を避けるべき音)ですし、「ラ」はメジャーキーで明るさを演出するときにメロディ冒頭に使用しにくい音です。
そのため、長調と短調のトニック(Ⅰ△7とⅥm7)の構成音かつどのダイアトニックコードに対してもアヴォイド・ノートではない「ミ」がより使用されやすいのかな…と思いました。
※最初にも書いたように分析に使用したメロディのチョイスは僕の好みで、調べる対象を変えれば割合の数値は変化します。
ただ、2000以上のフレーズを調べたので(僕の計算が間違っていなければ)サンプリング誤差は±約2%程度です。
また、概ね著名な曲のメロディを調べているので、実態と大きくかけ離れている可能性は低いとも感じています。
実際に、この「各音がメロディ冒頭に使用される割合」は、フレーズのサンプル数が500くらいの時から大きく変化していません。
最もよく使われる”メロディ”とは!?
こうなってくると、さらに続きも気になってきます。
そこで、ピッチクラスの変化の出現頻度の割合を示したデータを元に、“メロディ”の希少性を評価してみました。
そして、試行錯誤の結果、概ね「最もよく使われているだろうピッチクラスの変化」に目星を付けました。
データを分析した限り、一番よく用いられてるピッチクラスの変化は
「ミ→レ→ド」でした。
僕自身、ピッチクラスの変化を記録している段階から『「ミ→レ→ド」を使っている曲が多いなぁ~』と思うほど多くの曲で、「ミ→レ→ド」が使われていました。
※今回の分析方法を思いつく前に自分が作った曲の中にもありました。
ピッチクラスの変化が「ミ→レ→ド」な曲
以下で紹介するのは、ほんの一例です。
キタニタツヤ – 青のすみか
サビ冒頭の「今でも」が「ミ→レ→ド」です。
米津玄師 – ピースサイン
サビ冒頭の「もう一度」の部分が「ミ→レ→ド」です。
BTS – Butter
サビ冒頭の「Side step, right」の部分が「ミ→レ→ド」です。
UVERworld – AS ONE
サビ冒頭の「陰と陽」が「ミ→レ→ド」です。
あいみょん – 君はロックを聴かない
サビ冒頭の「きみは」が「ミ→レ→ド」です。
バルーン – メーベル
サビ入りの「だから」が「ミ→レ→ド」です。
SHE’S – Letter
サビ冒頭の「僕らは」が「ミ→レ→ド」です。
Ado – ギラギラ
サビ冒頭の「ギラギラ」が「ミ→レ→ド→シ」です。
ゆず – 栄光の架橋
サビ入りの「いくつもの」が「ミ→レ→ド」です。
“いく”の部分は「ミ」のオクターブ跳躍、”もの”は「ド」の同音連打なので、ピッチクラスの変化としては、このメロディ冒頭も「ミ→レ→ド」となります。
その他の主な曲例をまとめたSpotifyのプレイリストはこちら! ↓
誤解してほしくないこと
ここまで読んで、安直に「なるほど~よい曲を作りたければ“ミ→レ→ド”を入れとけばいいのか~」と考えるのは違うのかなと思います。
最終的な曲やメロディの良し悪しには、もっとたくさんの要素が関係しています。
「リズム」や「コード進行の種類」だけで曲の良さは決まらないのと同じで、「ピッチクラスの変化の流れ」だけで、曲やメロディ自体の評価を決めるのは早計だと考えます。
なぜなら、作曲では和音でもリズムでも、”ありきたりなもの“と”そうでないもの“をどのバランスで配置するかが重要だと思うからです。
しかし、一方で「何がよく使われるか」の知識は大きな指標になります。
ですから、この分析はそんな視点で捉えていただきたいです。
実際、上で紹介したどの曲もそれぞれ色々な工夫をされており、曲全体で見て「ありきたりだ」とは感じませんよね。
珍しい”メロディ”とは!?
では逆に、珍しいピッチクラスの変化をするメロディはどんなものでしょうか?
次は僕が調べた中で「珍しいピッチクラスの変化をするな~」と感じたものを紹介します。
ここでもう一度、冒頭の各ピッチクラスの登場割合を見てみましょう。
【考察】
四七抜き音階ことペンタトニックスケール(ド-レ-ミ-ソ-ラ)の有用性を改めて感じますね。
しかし、その中では「レ」始まりのメロディの割合が比較的低いです。
この理由は、フレーズの冒頭に非常によく使われるコード、「Ⅰ△7、Ⅳ△7、Ⅵm7」の構成音に「レ」が無いためだと考えられます。
そして、メジャースケール(ド-レ-ミ-ファ-ソ-ラ-シ)に含まれるにもかかわらず、「ファ」や「シ」がフレーズの冒頭に来る割合の低さも伺えます。
この原因は、いくつか考えられます。
まず、鼻歌などで感覚的にメロディを作ろうとすると、以下の理由から「ファ」や「シ」を使ったメロディが生まれにくい傾向があります。
- 「ファ」は下属調の「ド」を意識させる。
- 「シ」は属調の「ミ」を意識させる。
- 「ファ」は、「ミ」に対して進行する(吸い寄せられる)力が強い。
- 「シ」は、「ド」に対して進行する(吸い寄せられる)力が強い。
それから、モード(旋法)的な要因も考えられます。
- 「ファ」は、フリジアン、ミクソリディアン、ロクリアンモードの特性音
- 「シ」は、ドリアン、リディアンモードの特性音
(特にポピュラー音楽では)モードの発想を取り入れた曲は比較的少ない印象です。
詳しくはこちら↓
したがって、(使い方によっては)メジャー・マイナー以外のモードを強く意識させる「ファ」や「シ」の使用割合が少なくなっているのではないかと考えました。
そして、「ド#/レ♭、レ#/ミ♭、ファ#/ソ♭、ソ#/ラ♭、ラ#/シ♭」は、メジャースケールの音から外れるため、さらに使用割合が低くなります。
※ただ、使えないわけではありません。(むしろ上手く使えば、印象深いメロディになりやすいかもしれません。)
…という感じで、ここまでは主に「メロディの分析方法」をまとめてきました。
以下では、「具体的なメロディの分析結果」をまとめていきます。
大まかな内容は
- 珍しいピッチクラス(ド・ミ・ソ・ラ以外の8音)から始まるメロディの曲例※
- 曲例※とともに「ミ→レ→ド」以外の頻出する使いやすいピッチクラスの変化の12選
- 各音のメロディ冒頭に使用される割合と、メロディ内に登場する割合の比較
- 132通りのピッチクラス変化、その全ての登場割合データと考察
となっています。(記事冒頭の目次を見るとイメージが分かりやすいかもしれません。)
(※曲の例は、全部合わせると約50曲紹介しています。)
「…なんだ有料か…」と思わずに、データ分析と執筆を頑張った僕を労うために「ご飯でも奢ってやろう…!」と思ってくれると嬉しいです。\(^o^)/