今回は、『うっせぇわ』でも話題沸騰中のシンガーAdoさんの新曲、『ギラギラ』の楽曲分析をしていきます。
…『ギラギラ』のYouTubeMV欄を見ると
と Hikakinさんのコメントが。
そんな「名曲。」の魅力を、僕なりに分析してみました。
それでは、いってみよう!(๑˃̵ᴗ˂̵)و
※分析は僕の耳で「多分こうなっているだろう」と推測・解釈したものです。
もしかしたら間違っている可能性もあるので、ご了承ください。
※短調のダイアトニックコードも、平行調の長調のディグリーにしています。
たとえば、CメジャーキーでもAmキーでも、AmコードはⅥmとしています。
Ado – ギラギラ
※作詞作曲は、てにをは さんです。
曲のリズムパターンの傾向
曲全体を通して「ハーフタイム(3拍目にアクセント)のシャッフル(3連符)」のリズムパターンが中心になっています。
ハーフタイムのシャッフルは、”ハーフタイムのゆったりしたノリ”と、”シャッフルの細かいノリ”が混ざり合ったリズムで、近年ヒット曲によく使われている印象です。
たとえば、こちらなど↓
King Gnu – Vinyl
詳しくは↓
ハーフタイムのリズムは、体感とは裏腹に結構速いテンポの場合が多いです。
実際に『ギラギラ』は192 BPMで、『うっせぇわ』が178 BPMなので『ギラギラ』の方がテンポが速いんですね。
リズムパターンの組み方で、リズムのスピード感が左右されるのが分かると思います。
イントロ
曲のキーはBmキー(#×2)、シンセの刻みから始まります。
最初の流れをコードネームで書くと、恐らくBm→G/B→Bm7(omit5)→BmMaj7(omit5)
和音の一部の音のみをズラしていく、クリシェと呼ばれる手法です。
この部分は、マイナーコードのトップノート(一番高い音)がズレていっています。
たとえば、東京事変の『永遠の不在証明』にも似たコード進行が使われており、個人的には少しサスペンスな印象を受ける進行です。
東京事変 – 永遠の不在証明
このシンセ刻みのセクションを2回しした後、シンセブラス系の音色がメインのフレーズに入ります。
最初の静かなシンセの刻み部分との対比で、このフレーズがより派手に聴こえますね。
Aメロ①
Aメロのアレンジは、全体的にコード感をキーボードに任せ、ギターやベースは適度に相槌を入れる方向性。
ここで注目してほしい部分は、小節数です。
多くの音楽は4の倍数の小節数※で展開していきます。
※または、2の累乗数と考えた方がいいかもしれません。
しかし、『ギラギラ』はAメロに入る前と、Aメロ①の折り返し部分にそれぞれ4の倍数に加えて小節が足される形になっています。
この小節数を4の倍数から変化させる手法は、リスナーの予想を裏切る効果があり、しばしば使われます。
たとえば、宇多田ヒカルさんの『One Last Kiss』のAメロ直前(0:24あたり)には、4の倍数の小節数に加えて6拍分(おそらく4/4拍子1小節分+2/4拍子1小節)が挿入されていますし…
逆に、The Beatlesの『Yesterday』の冒頭のメロディは、7小節で完結しています。
(Remastered 2009) · The Beatles
Bメロ
Bメロ冒頭では、リズムセクションが抜かれています。
一度クールダウンしてからサビへの助走をつけていく展開ですね。
そして、Aメロと似た発想で、サビに入る直前にも+2小節が挿入されています。
「サビへのジャンプ台」とも言えそうな工夫でしょう。
また、ただ小節数を増やすだけではなくリズムのキメが入ったフレーズになっており、サビへの期待感を高めています。
サビ前にキメている曲例↓
SOUL’d OUT 『ウェカピポ』
米津玄師 – 感電
サビ
Bメロ終わりの時点でかなり助走をつけてきました。しかし、まだ終わりません。
サビに入る時に転調しています。
元のキーがBmキー(#×2)、サビのキーがDmキー(♭×1)なので、「♭+3の転調」になります。
「♭+3の転調」は、使いやすいわりに印象が派手になりやすく、「テクい感」も出る転調で、特にサビに入るときに転調するパターンでは1番よく使われる気がします。(※僕調べの情報)
詳しくは↓
そして、いよいよサビに入っていきます。
次は、サビのメロディに注目してみます。
サビ冒頭「ギラギラ」のメロディを移動ドで捉えるとピッチクラスの変化は「ミ→レ→ド→シ」です。
キャッチーなメロディの冒頭に「ミ→レ→ド」が使われる確率は高く、王道なメロディを作る要素のひとつだと思います。
詳しい説明は↓
…ここまで読んできて「この曲ってわりと普通なことやってるの?」と思ったあなた。
違います。
「押さえるところを押さえた」上で個性が盛り込まれている曲こそ、良いポピュラーミュージックであり「名曲。」です。
僕が特に個性的だと思ったのは、サビの折り返し地点「今に見てろこのluv」の部分。
中々刺激的なギミックが施されています。
音楽理論を知らなくても、「今に見てろこの」部分にビザールな印象を受けた方も多いのではないでしょうか。
その理由は、この部分にDmキー(♭×1)の構成音でない音が多く含まれるためです。
(「luv」ですぐDmキー(♭×1)に戻ってきているので、転調ではないと解釈しました。)
”E→G♭→G→A”部分は、メジャーコードをズラしていく形になっています。
コード進行的には平行和音、メロディ的にはゼクエンツ(反復進行)の一種と考えられそうです。
詳しくは↓
考察
…もう少し踏み込んで、「何故このコード進行になったか?」も考察してみます。
まず、このキーはDmキー(♭×1)です。
したがって、Dmへ向かうドミナントコードの有力候補はA7です。(ハーモニックマイナー由来)
そして、A7へのドミナント(つまりDmへのダブルドミナント)はE7になります。
しかし、ここでE7→A7→Dmをしても普通なので、間に何かを挟むと考えます。
すると…E(ミ)とA(ラ)の間には、F(ファ)、F#/G♭、G(ソ)、G#/A♭の4音がありますよね。
ここら辺の音を経由していくと、ベースの動き的にもなめらかに繋がりそうです。
4拍使ってDmへ行くとすれば、1拍ずつ使ってE7→〇7→〇7→A7→Dmみたいなドミナント・セブンコードの連結が想定できます。
このうち、Fは平行調のFメジャーキー(♭×1)のトニックなので緊張感を薄めそうなので除外、G#/A♭も流れ的に「♭+3の転調」を意識させそうなので除外すると…
E7→G♭7→G7→A7→Dm
となります。
さらに、サウンドが重くなりそうなのでコードから7th(短七度)の音を外すと
E→G♭→G→A→Dm
つまり、役割としては”E(ダブルドミナント)→G♭(経過和音1)→G(経過和音2)→A(ドミナント)→Dm(トニック)”と解釈した感じです。
となって「今に見てろこのluv」の部分のコード進行になります。
※あくまで、”考察”なので作曲者が実際にどう考えたかは分かりません。
バックコーラス入りセクション – 間奏
サビが終わると「ギラ ギラギラ」とバックコーラス入りのセクションに入ります。
このセクションは、一番最後のDメロの伏線的な意味合いがあると考えられます。
…バックコーラスの声色からEric Claptonの『I Shot The Sheriff』を思い出しました。笑
Eric Clapton – I Shot The Sheriff
その後、転調してイントロと同じフレーズの間奏(Bmキー(#×2))に戻ります。
Aメロ②
Aメロ①とは違い、追加された1小節はありません。
ストレートに4の倍数の小節数で進行していきます。また、Aメロ②は1回しのみです。
このやり過ぎない匙加減がクールですね。
そして、Aメロ①に比べて、ベースが手数多めのフレーズを弾いています。
Bメロ②
Bメロ②はリズムセクションが抜かれずに、ずっとドラムのキックが鳴っています。
また、他のパートも若干アレンジが違っており、飽きさせないための細かい工夫を感じます。
サビ②
基本的には、1回目と同じです。
しかし、一番最後のメロディが変わっており、そのままCメロに繋がる感じになっています。
Cメロ
曲中一回のみ登場するセクションです。
YouTubeのMV概要欄に「もしも神様が左利きならどんなに幸せか知れない」と書かれているので、作り手側はこのフレーズを歌詞のパンチラインに据えていると伺えます。
基本的には歌詞のメッセージは、曲が盛り上がると伝わりづらくなります。
したがって、歌詞のキメ球は”伴奏が落ち着いている時”に投げた方が伝わりやすいです。
Cメロの伴奏が比較的シンプルなのは、恐らく音楽的なギミックよりも歌詞のキメ球を投げるための意味合いが強い気がします。
ギターソロ
Cメロの後はギターソロになります。
…とは言え、Cメロ最後の「oh」のロングトーンが被さっているので、影は薄めな気がします。
ギターの存在感があるのは、せいぜい5秒です。
きっと、神様は右利きの上にギタリストではないのでしょう。笑
ラスサビ
ラスサビです。
アウトロ – Dメロ
サビ①の後にもあったバックコーラスのあるセクションに続く形で、最後の最後に新しいメロディが出てきます。
ブルーノートを絡めたカッコいいメロディですね。
個人的に、ブルーノートはメロディの必殺技だと思っています。
それを最後の最後のダメ押しで使ってくるとは…粋なメロディ展開です。
曲の終わり
曲の最後は、Gメジャーコードで終わっています。
Gメジャーコードは、Dmキー(♭×1)キー視点から見ればⅡに当たるコードで、ダイアトニックコードではありません。(Dメロディックマイナーと解釈すれば居ますけど)
ここは、「曲の一番最後にCメジャーキー(#・♭×0)へ転調した」と解釈しました。
なぜなら、最後の部分のコード進行 「E♭ → A♭ → F → G 」の後、Cメジャーコードを鳴らすと解決感があるからです。
そして、実際はトニックであろうCメジャーコードへは行かず、ドミナントであろうGメジャーコードで終わるので、この部分は“半終止“だと思います。
通常、曲の一番最後に安定感の無い“半終止“を用いるのはあまり推奨されません。
しかし、歌詞の主人公の不安定な心情と重なる表現としてあえて最後に用いたのでしょう。
むしろ、普通にスッキリ終わってしまうと
なんて素晴らしき世界だ!ギラついてこう
Ado – ギラギラ
が皮肉っぽくなくなってしまう気がします。
ちなみに、こういった終わり方はJ-Popでは珍しい気もしますけど、特定の界隈ではしばしば見られる気がします。笑
Dream Theater – Outcry
まとめ
最後の部分を含めると4回転調していると考えられそうです。
転調の回数 | 転調の間隔 | キー | セクション |
B Minor(♯×2) | ~Bメロ1 | ||
1 | ♭+3の転調 | ↓ | |
D Minor(♭×1) | サビ・間奏 | ||
2 | ♯+3の転調 | ↓ | |
B Minor(♯×2) | Aメロ2・Bメロ2 | ||
3 | ♭+3の転調 | ↓ | |
D Minor(♭×1) | サビ2~アウトロ | ||
4 | ♯+1の転調 | ↓ | |
C Major(♯・♭×0) | 一番最後 |
というわけで、Adoさんの新曲、『ギラギラ』の楽曲分析でした!
少しでも楽曲を深く味わう手助けができたなら幸いです。(๑˃̵ᴗ˂̵)و
では!