今回は、大ヒット映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の主題歌
LiSAさんの『炎』の感想と楽曲分析をしたいと思います!!
それでは早速いってみよう!(๑˃̵ᴗ˂̵)و
※分析は僕の耳で「多分こうなっているだろう」と推測・解釈したものです。
もしかしたら間違っている可能性もあるので、ご了承ください。
※短調のダイアトニックコードも、平行調の長調のディグリーにしています。
たとえば、CメジャーキーでもAmキーでも、AmコードはⅥmとしています。
※僕はまだ鬼滅の刃の映画は見ていません。原作は全部読みました。
LiSA – 炎
※作曲は梶浦由記さんです。
イントロ:Bmキー(#×2)
イントロは、昨今のストリーミング全盛時代的価値観に照らし合わせると
情報量が少ないわりに長い印象を受けます。
イントロの構成は2小節×2回し+1小節で、尺は約15秒。
合いの手となるプラック系シンセ音色や、ギターの音色は最小限の音数で
2回し目から入るドラムもメロディと同じリズムでシンバルを控えめに鳴らすだけです。
しかし、映画の主題歌であることを勘案すると このアレンジには合点がいきます。
なぜなら、音と音の間に残されたスキマが
映画への没入感と余韻を邪魔せずにより深くしてくれている と感じるからです。
Aメロ①:Bmキー(#×2)
Aメロ①はシンプルなピアノ中心の伴奏で、歌を聴かせるアレンジになっていますね。
このセクションのビートを刻む役割は、ドラムではなく主に左チャンネルのギターに任されています。
これにはある程度の静寂感を維持しつつ、曲に立体感を持たせる意図が伺えます。
※一応サンプル系のドラム音色が鳴っていますけれど、とても控えめです。
歌のメロディは、ゆったりしているようで実は細かくシンコペーションが組み込まれています。
一般的に、バラードはテンポが遅いイメージがあるかもしれません。
しかし、リスナーが感じる曲のスピード感は、リズムパターンの組み方次第でかなりコントロールできます。
実は良いバラードには、細かなリズムが組み込まれている場合が多いのです。
詳しくはこちら↓
Bメロ①:Bmキー(#×2)→Dmキー(♭×1)
メロディをセクションの小節線に対して
①前から始まる ②同時 ③後ろから始まる
3タイプに分類する考え方があります。
まず、この分類だとBメロは①前から始まるタイプのメロディになります。
また、ただ前から始まるだけでなくAメロ最後の「~間に合うように」から間 髪を容れずに「このまま続くと思っていた~」とBメロのメロディに繋がっています。
(ここで同時に楽器隊も本格的に入ってきます。)
この緩急によって、一気に曲の世界観にグッと引き込まれる感じがしますね。
Bメロ内の転調
次に、Bメロの後半「呼びあっていた~」から
Bmキー(#×2)→Dmキー(♭×1)へと「♭+3の転調」をします。
調号の♭や♯が3つ変わる転調は、比較的使いやすい転調です。
「ここら辺は転調じゃなくて借用和音で考えても良いんじゃない?」と思う人もいるかもしれません。
しかし、僕はこういう感じの流れを借用和音で解釈すると結局分析が煩雑になると思うので転調で考えたい派です。
特に「♭+3の転調」は、邦楽でよく使われる印象があります。
※詳しくはこちら↓
Bメロ内転調のメロディ
長調と短調を区別するのは、3度の音です。
(調性の中心の音から見て、長3度の音が入っていれば長調、短3度の音が入っていれば短調と考えられます。)
この性質を利用すると「ド→レ→ミ」と行きそうな流れを「ド→レ→ミ♭」とすれば、♭+3の転調先から見ると「ラ→シ→ド」となり、スムーズにメロディをつなげます。
Bメロの転調部分のメロディには、この3度の音を読み替える発想が使われていると思われます。
from the edgeとの関連性
同じくLiSAさんが歌い、梶浦由記さんが作曲されたテレビアニメ『鬼滅の刃』のエンディングテーマ『from the edge』でも、何度か3度の音を読み替える発想の「♭+3の転調」が行われています。
意図的にこの流れを取り入れたのではないかと感じます。
サビへ向かうコード進行
そして、転調した後はサビに向けてどんどん盛り上がっていきます。
この”サビに向かっている感“の一端を担っているのはコード進行の力です。
Ⅱm7→Ⅲm7→Ⅳ→#Ⅳdim→Ⅴ→Ⅲ/#Ⅴ
サビに向かって絶えずベースラインが上昇しており、
サビ直前では半音でベースラインが上昇しています。
ジワジワと盛り上げたいときの鉄板コード進行です。
サビ①:C#mキー(#×4)
サビです。
サビへの転調
サビに入るときにまた転調しています。
しかも、Dmキー(♭×1)から半音下のC#mキー(#×4)への転調なので「#+5の転調」です。
音楽は、基本的には音が上がる方が盛り上がり易く比較的珍しい転調になります。(参考↓)
また、転調前後のメロディの流れにも注目です。
Bメロ最後の「胸の奥に熱いのに~い↓い↓い↓」の「に~い↓い↓い↓」の部分のメロディは「ラ~ソファミ」なのに対して…
サビ頭の「僕たちは」のメロディは「ミ レ♯ ミ ファ♯ ミ」です。
つまり、Bメロの最後とサビの頭の音(ミ)が固定ドで見て同じ音になっています。
同じ音を軸足にして「#+5の転調」を より滑らかにしていると感じます。
沈み込むような「#+5の転調」のサウンドを組み込んだ巧みなアレンジですね。
ちなみに、転調の前後でメロディが同じ音を鳴らしている転調をコモン・トーン・モジュレーションと言います。
※詳しくはこちら↓
サビのメロディ
さらに、個人的には「サビ頭のメロディ自体にも仕掛けがあるのではないか」と睨んでいます。
というのも、サビ頭「ぼくたちは・もえさかる」のメロディを移動ドで眺めると「ド シ ド レ ド・ド シ ド レ ド」となります。
このピッチクラスの変化は、同じくLiSAさんが歌うテレビアニメ『鬼滅の刃』のオープニングテーマ
「『紅蓮華』の歌い出しを意識したのではないか?」 と感じるからです。
『紅蓮華』の歌い出し「強く・なれる」のメロディはEmキー(♯×1)で「ソファ#ソ・ソファ#ソ」なので、移動ドで眺めると「ドシド・ドシド」となります。
よって、どちらの曲も冒頭の「ド→シ→ド」は同じピッチクラスの変化になります。
「いやいや、リズムもキーも違うたった3音の類似でしょ?」と思うかもしれません。
しかし、多くの音楽は12種類の音で作られているので、メロディ冒頭3音の組み合わせだけで12×11×11=1452通りもあります。
※もちろん、大半の曲は調性に則って作られているので1452通りの組み合わせが使われる確率は一様ではありませんけど。
※メロディをピッチクラスで分析する方法について詳しくはこちらの記事↓をご覧ください。
つまり、Bメロと同じく折に触れて他の楽曲と共通する要素を取り入れてリスナーに”『鬼滅の刃』の音楽の世界観を通底する何か“を暗示する意図があるのではないか と考察できます。
間奏①:C#mキー(#×4)→Bmキー(#×2)
このセクションでは次のAメロ②に備えるべく、C#mキー(#×4)からBmキー(#×2)へ「♭+2の転調」をして元のBmキー(#×2)へ戻っています。
そして、コード進行は
C#m→B→A→E‐(転調)→Bm→A→G→D
みたいな感じです。
つまり、イントロと同じコード進行の流れである
Ⅵm→Ⅴ→Ⅳ→Ⅰ
をキーをズラして2回繰り返す発想だと分かります。
Aメロ②:Bmキー(#×2)
まず、Aメロ①と打って変わって、ドラムがしっかりビートを刻んでいます。
そして、ストリングスの対旋律なども入っていて、1回目よりもゴージャスなアレンジになっています。
Bメロ②:Bmキー(#×2)→Dmキー(♭×1)
1回目のBメロと同じく、セクション後半の「君の言葉~」からBmキー(#×2)→Dmキー(♭×1)へと「♭+3の転調」をします。
「オウオウ」言っているセクション:Emキー(♯×1)
Bメロ②の後は、サビに行くかと思いきや…
サビには行かずに転調して新しいセクションへ行きます。
※直前のBメロ後半がDmキー(♭×1)なので、「♯+2の転調」をしている形になります。
Cメロ:Emキー(♯×1)→Gmキー(♭×2)
Cメロは、コード進行やメロディの流れから鑑みるに、サビとBメロを土台として作られたセクションだと思います。
まず、冒頭「音を立てて」のピッチクラス変化は移動ドで「ド→シ→ド→ソ」です。
サビと同じく「ド→シ→ド」が使われていますね。
そして、後半の「一つだけの~」あたりは恐らくBメロ(後半)と同じメロディの流れを意識したフレーズです。
したがって、それを勘定に入れるとここはBメロと同じく「♭+3の転調」でGmキー(♭×2)へ行っていると解釈した方が一貫性があって良いでしょう。(たぶん。)
ただ、すぐにEmキー(♯×1)の調性の重力圏内に戻っているように聴こえるので、転調かどうかの判断はBメロ以上に微妙ではあります。
個人的に「音を立てて崩れ“落ち“ていく」の部分に入るシンコペーションが好きです。
間奏②:Emキー(♯×1)
この部分コード進行的は、Em→D→C→Gです。
つまり、イントロや間奏①などと同じ
Ⅵm→Ⅴ→Ⅳ→Ⅰ
の流れだと分かります。
サビ②:C#mキー(#×4)
1回目のサビは、Dmキー(♭×1)のBメロから「#+5の転調」でサビに入っていました。
一方、2回目のサビにはEmキー(♯×1)の間奏②から「#+3の転調」で入っています。
つまり、珍しい「#+5の転調」は宛ら伝家の宝刀、曲中1B→1サビの1回でしか使われていません。
曲全体で見ても、高度なバランス感で転調を使っていると感じますね。
そして、2回目のサビは後半の尺が増えて最後の盛り上がりを見事にまとめ上げています。
アウトロ:C#mキー(#×4)→Bmキー(♯×2)
アウトロのコード進行もイントロや間奏と同じ
Ⅵm→Ⅴ→Ⅳ→Ⅰを基盤にしています。
ただ、この部分は
C#m→B→A→E→C#m→B→A→E‐(転調)→Bm→A→G→D
みたいな感じで、間奏①に比べてC#m→B→A→Eが2回しある部分が異なっていますね。
そして、色々転調しつつも最後は最初と同じBmキー(♯×2)へ戻ります。
最初と同じキーで終わるところに様式美を感じます。
まとめ
転調の回数 | 転調の間隔 | キー | セクション |
B Minor(♯×2) | ~Bメロ1 | ||
1 | ♭+3の転調 | ↓ | |
D Minor(♭×1) | Bメロ1後半 | ||
2 | ♯+5の転調 | ↓ | |
C# Minor(♯×4) | サビ1・間奏1 | ||
3 | ♭+2の転調 | ↓ | |
B Minor(♯×2) | 間奏1後半~Bメロ2 | ||
4 | ♭+3の転調 | ↓ | |
D Minor(♭×1) | Bメロ後半 | ||
5 | ♯+2の転調 | ↓ | |
E Minor(♯×1) | オウオウ・Cメロ | ||
6 | ♭+3の転調 | ↓ | |
G Minor(♭×2) | Cメロ後半 | ||
7 | ♯+3の転調 | ↓ | |
E Minor(♯×1) | 間奏2 | ||
8 | ♯+3の転調 | ↓ | |
C# Minor(♯×4) | サビ2・アウトロ | ||
9 | ♭+2の転調 | ↓ | |
B Minor(♯×2) | アウトロ後半 |
解釈にもよりますけど、9回転調していますね。
曲を俯瞰すると、転調をしまくるにも関わらず曲としての統一感を損なわないためアイデアとして
- スムーズに行き来ができる「♯・♭+3の転調」が多い
- 違うキーやセクションにも似たコード進行やメロディの流れを配置している
が挙げられると思います。
また、ただ技巧的なだけではなく それぞれしっかりと
音楽的な作曲やアレンジになっているところも素敵です。
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』並びに 主題歌のLiSAさんの炎の大ヒットは色々あった2020年、久しぶりの明るいニュースに感じました。
この勢いで色んなところに元気が戻ると良いなぁと思います。
追記
動画でさらに詳しく分析しました!
白銀の分析はこちら!
こちらもオススメです!
ちなみに、他にも転調する曲が知りたい方はこちらもどうぞ。
では!(๑˃̵ᴗ˂̵)و