今回は、巷でしばしば話題に上がる“AI“を使った作曲について僕の感想を語っていきたいと思います。
※あくまで僕の私見です。
ご指摘・ご意見・ご感想があればコンタクトフォームよりお知らせください。
はじめに
“AI”について
まず、“AI(artificial intelligence)=人工知能“は、はっきりとした定義が定まっていない言葉です。
「人工的に作られた知能を持つ物体あるいはそれを作ろうとすることによって知能時代を研究する分野である。」
中島秀之
「知能を持つメカないしは心を持つメカである」
西田豊明
「知能の定義が明確ではないので人工知能を明確に定義できない」
浅田稔
(↑上記のリンク先にさらに色々な先生の定義が紹介されています。)
このように、専門家の先生によっても色々な解釈があるようです。
現状では”コンピューターに何らかの学習・推論・判断をさせるプログラム“をふわっと全体的に”AI“と呼んでいる印象です。
今回の記事では、「作曲に関係するコンピュータープログラム全般」を”作曲AI“として考えたいと思います。
音楽は数学的
では、”AI“と“音楽”との関わりを考えてみましょう。
作曲をやらない方は、「“音楽”は人間の”閃き”や”感性”によって作られる」イメージがあるかもしれません。
しかし、そういった方々が思う以上に実際の“音楽”は数学的です。
これは、「作曲者が意識して数学的に作曲しているかどうか」ではなく…「そもそも“音楽”自体が、数学的なシステムの上に成り立っている」という意味です。
そして、めちゃくちゃ雑に言えば”AI“は「“計算問題”を解くプログラム」なわけです。
したがって、“AI”と“音楽”はわりと親和性の高い分野だと思います。
未だ大半の”作曲AI”の実力が微妙に感じる理由を考察
しかし、「まだまだ“作曲AI“の実力は微妙」という意見が大半だと思います。
この理由は大きく3つあると思います。
①人間側の問題
1つ目は、人間側の問題です。
巷では、オリジナリティがありジャンルに捉われていない音楽が良しとされます。
しかし、それはあくまでアーティストのブランディングやポジション・トークの側面が強いです。
文字通りの意味でのオリジナリティがありジャンルに捉われていない”音”は、“音楽”であると感じられない可能性があります。
なぜなら、あくまで”音楽”の定義や良し悪しを判断するのは人間だからです。
実際、いきなり“前例から大きく外れた音”を聴かされても、大半の人間はそれを簡単には理解でないでしょう。
つまり、逆に考えると“作曲AI“への評価で「人間の音楽に対する認知の輪郭が浮かび上がってくる部分がある」とも言えそうです。
②アプローチの仕方が効率的ではない可能性
2つ目は、アプローチの仕方が効率的ではない可能性です。
“AI”を作成しているプログラマーの方は、”高度な音楽理論の知識“や”作曲への体感“を持った方ばかりではない印象です。
それ故に、非効率的なアプローチをしているケースがあるのではないかと感じます。
音源から直接データを学習しようとしている
典型例として挙げられそうなのが「完成音源から直接データを学習させようとしている」ケースです。
この手法は、なかなか現実的ではないと思います。
なぜなら、人間が作曲をする時も音源を参考にしていきなり音源を作り出してるわけではないからです。
具体的には、人間は音楽に対して「メロディ・コード・リズム・音色・音響・楽曲構成…」みたいな抽象化を行って考えています。
…音源から直接データを学習して曲を生成するアプローチは、人間で言うところの「うろ覚えで口ずさんでいる鼻歌」みたい感じですかね…。
したがって、基本的には人間と同じく「細かい段階やパーツごとに処理のアプローチを分けた方が現実的ではないかな…」と思います。
(ただ、音楽ジャンルによってはそれなりに上手くいっていそうなケースもあります。↓)
③「作曲」に対するイメージの違い
3つ目は、“作曲”に対するイメージの違いです。
実は、普段よく耳にする“音楽”の完成度は“編曲“によって大きく左右されます。
適当な鼻歌でも“作曲”になる一方で“編曲”には音楽的な技術力と知識が不可欠です。
…つまり、「本来の意味での“作曲”では既に”AI”は結構優秀だ」とも言えそうなのです。
Daddy’s Car
こちらは、The Beatles(ビートルズ)の楽曲を学習させたAIに作曲させた曲を参考に、人間が演奏・アレンジした曲『Daddy’s Car』です。
いかがでしょうか。
僕は、The Beatlesの雰囲気をよく捉えていると感じます。
そして、本家The Beatlesの楽曲と比べても、「良い」と感じる部分も多くあります。
(あくまでもThe Beatlesのガチファンではない僕の感想です。)
…この曲は、どのようなAIの出力に対してどの程度人間が手を加えたか細かい部分は分かりません。
こちらの記事によると
歌詞は人間が別途作詞。それに人間が編曲し、人間が歌ったボーカルをレコーディングして、この曲を作っていたのだ。
https://av.watch.impress.co.jp/docs/series/dal/1178759.html
つまりAIが行なったのはメロディー生成とコード進行、それも100%がAIというわけではなかった。
とあります。
しかし、少なくとも「AIで“作曲”された部分がある」のは事実でしょうし、人間が“作曲”した場合でも“編曲”でメロディーやコード進行が変更されるケースはあります。
そして、(僕の完全なる主観ですけど)「人間が“作曲”すれば、誰でも必ずこの曲を超える曲が作れる」とは到底思えません。
したがって、既に「このくらいのレベル感の“作曲”はAIで可能」と言えるのではないかと思います。
AIに対する考え方:良き相談相手
将来、さらに革新的な技術が生み出されれば状況は変わるかもしれません。
しかし、僕は少なくとも現在の時点では”全部作ってくれるAI”よりも、“本来の意味での「作曲」をする”など、“人間の補佐AI”の方が需要があると思います。
その理由は主に2つあります。
①最終的に成果物を判断するのは人間
“人間の補佐AI”に需要を感じる1つ目の理由は、最終的に成果物を判断するのは人間だからです。
特に音楽の場合は、5分の曲をちゃんとチェックするなら最低5分以上かかります。
その上で、細かい部分を手直ししたい場合もあります。
したがって、「音源をいきなりそのままアウトプットされても、実はそんなに便利じゃない」と感じます。
それよりも、曲作りの各段階をサポートしてくれる方が助かります。
ちなみに、既にそういったソフトウェアやサービスは存在しています。
ここでは、いくつか紹介したいと思います。
Riffer
ランダムなリフを自動生成してくれる「Riffer」。
ランダムなシーケンス・パターンを作るのはもちろん、打楽器の音源と組み合わせても面白いです。
実際に、KHUFRUDAMO NOTESの『KEGON』のイントロで鳴っている金属音的なリズムパターンは「Riffer」で出力されたパターンを元に作りました。
Ozone
iZotope社の「Ozone」は、ミックスやマスタリング(音源の仕上げの工程)に使うソフトウェアです。
その中に、AIが音源のバランス調整などを行ってくれる機能があります。
このAIの処理結果を参考に作業をされている方も多い印象です。
(個人的にはあまり使っていませんけど。笑)
Flow Machines Professional
ソニーコンピュータサイエンス研究所が開発したFlow Machines Professionalは、作曲者の作りたいスタイルに合わせたメロディー、コード、ベースを提案してくれるAIらしいです。
先ほど紹介した『Daddy’s Car』もこのシステムの前身にあたるシステムで作曲されたようです。
※一般ユーザーには解放されていないシステムです。
…こういったソフトウェアやサービスが気軽に使えるようになれば、将来もっと作曲のやり易さが向上すると感じます。
②気軽にアイディアを棄却・改変できる
“人間の補佐AI”に需要を感じる2つ目の理由は、「気軽にアイディアを棄却・改変できる」点です。
近年、コライト(複数人での作曲)を行うケースが増えてきました。
また、バンドのオリジナル曲制作はメンバー全員でアイディアを出していくのが一般的です。
こういった複数人による作曲は「1人では思いつかない良いアイディアを1曲の中に盛り込める」とされます。
しかし、提案されるのは“参加者全員にとって良いアイディア”ばかりでは無いのも事実です。
時には誰かの出したアイディアを棄却・改変する必要が出てきます。
そして、音楽は良し悪しを判断する絶対的な基準が無いので“落としどころ”も難しいです。
ときに音楽的な視点ではなく、組織内のパワーバランスや相手への忖度でアイディアの行く末が決まります。
アイディアのやり取り次第では、誰かがストレスを感じたり人間関係が悪化したりする場合もあるでしょう。
それに対して、AIにはアイディアに紐づくプライドや感情がありません。
したがって、10回でも100回でも…気軽にアイディアを棄却・改変できます。
ある意味、AIと人間の最大の違いかもしれません。
まとめ
現状、AIを使った“作曲”は今までの“作曲”のイメージとかけ離れているため、否定的な印象を持たれる方もいるかもしれません。
しかし、僕は「暗算をするか、電卓を使うかの違い」みたいな感じになる(既になりつつある)のではないかと思います。