今回は「ローカット」について語りたいと思います。
ローカットとは
「ローカット」とは、イコライザーのローカットフィルター(ハイパスフィルター)を使って、指定した帯域以下の音を(-6dbとか以上)極端に削ることです。
たとえば120Hz以下をローカットすると、 120Hz以下の音はほとんど鳴らなくなります。 ※
(※フィルターのかけ方にもよります)
ローカットを入れるとミックスがスッキリする?
「中低域(100~350Hz)あたりの音がたくさん鳴っていると、高域がマスキングされて音が篭るので、ローカットを使うのが有効!」
とか
「まずはミックスの下ごしらえとして、ざっくりとローカットを入れましょう。」
みたいな意見を見かけます。
ぶっちゃけ僕も、かなり昔はそう思っていました。
しかし、現在は基本的にそういったローカットはしないほうが良いと思っています。
ミックス時にローカットしない方が良い理由
ミックス時にイコライザーを使う目的は、「不必要に被っている帯域の調整」です。
たとえば、バスドラムとベースギターなど似通った周波数帯域の要素を多く持つ楽器の音同士は、干渉してお互いに聴こえにくくなる※ことがあります。
(周波数マスキングと言います。)
こういった問題を解決するために 特定の周波数帯域の音量を上げたり下げたりできるイコライザーを使うわけです。
※「曲の中でのバランスをとること」が目的で、「周波数マスキングを完全に取り除くこと」が目的ではありません。
マスキングによる”篭り感”の多くは低域全体ではなく、中低域の特定の帯域が原因です。
したがって、この”篭り感”はトラック間のヴォリュームを整えた後であれば、ローカットでバッサリ切らなくてもカブっている帯域を1.5db前後調整するだけで改善できる場合が多いです。
また、イコライザーを使わなくとも
- パンの調整
- 音場の作り方を工夫する
- コンプレッサーを活用する
- イメージャープラグインで低域のワイド感をコントロールする
などさまざまな対策も考えられます。
さらに言えば、篭っていると感じるのは、中低域に鳴る音同士のマスキングではなく、リバーブや空間系のかけすぎや、楽器の定位によるものも多いんじゃないかなぁ…とも思います。
ローカットの代償
たしかに、ローカットで低域を切るとスッキリした感は出ますし、それだけガッツリ削れば干渉する帯域も無くなるでしょう。
ただ、 迫力に関係してくるオイシイ低域成分なども一緒に無くなります。
本当は一部の帯域だけを少し調整すればいいのに、ローカットを入れて低域をバッサリ切り落としてしまうのはもったいないと思いませんか?
したがって、ローカットは“明確な意図”が無い場合やらない方が良いと思うようになりました。
まとめ
要するに、「ミックスの下ごしらえとして、とりあえずローカット入れとくか…」みたいなノリでローカットするのはやめた方が良いと考えます。
もちろん、最終的な判断は”ジャンル”や”目指している音”によると思います。
ただ、…少なくともやる前に一考する価値はあるはずです。
※音作りや、低域ノイズの除去などに関するローカットまで「しない方が良い」と言っているわけではないです。
「ハイカット」についても同じ考えです。
(ちなみに、イコライザーで急激なQのカットフィルターを入れると「カットされる境界の帯域が強調されて聴こえる」ので、それをミックスに応用する人もいるようですが、それはまた別の話だと思っています。ただ、こちらの手法も僕はほぼ使いません。)
こちらの記事でさらに詳しくイコライザーの使い方を書いているので、こちらも是非。