以前のCry Babyの楽曲分析が好評だったので…
今回は、TVアニメ『SPY×FAMILY』主題歌 Official髭男dism『ミックスナッツ』の楽曲分析をしていきたいと思います!
では、いってみよう!(๑˃̵ᴗ˂̵)و
※注意事項
※掲載している譜面を含めて、分析は僕の耳で「多分こうなっているだろう」と推測・解釈したものです。
もしかしたら間違っている可能性もあるので、ご了承ください。
※短調のダイアトニックコードも、平行調の長調のディグリーにしています。
たとえば、CメジャーキーでもAmキーでも、AmコードはⅥmとしています。
※イタリア式表記(ドレミ…)で書かれた音は”移動ド“、英・米式表記(CDE…)で書かれている音は”固定ド“です。
※僕は転調を”調号の数の変化“で分類しています。
詳しくは、こちらの記事やこちらの動画をご覧ください。
タイトル
ナッツは、クルミなどの木の実を指します。一方、ピーナッツは豆です。
したがって、タイトルの「ミックスナッツ」は、TVアニメ『SPY×FAMILY』の世界観のメタファーと思われます。
劇中で「ピーナッツ」という言葉が出てきましたし、見かけ上は溶け込んでいても、出自や背景が違う様子を「ミックスナッツ」に例えているのだと思います。
袋に詰められたナッツのような世間では~(中略)~
そこに紛れ込んだ僕らはピーナッツみたいに木の実のフリしながら
©Official髭男dism『ミックスナッツ』(Aメロ1)
生まれた場所が木の上か地面の中か それだけの違い
©Official髭男dism『ミックスナッツ』(Bメロ2)
曲構成
曲構成自体は、比較的シンプルですね。
- イントロ:10小節…(4・4・2)
- Aメロ1:16小節…(8・8)
- Bメロ1:10小節…(2・2・2・4)
- サビ1:22小節…(8・8・4・2)
- Aメロ2:18小節…(8・10)
- Bメロ2:10小節…(2・2・2・4)
- サビ2:44小節…(8・8・2・ 8・8・4・4・2)
しかし、それぞれのセクションに楽しいギミックが施されているので、順番に見ていきましょう!
セクションごとの感想・分析
イントロ:F#マイナー(#×3)
ウォーキングベースっぽいリフ
初っ端から、ウォーキングベースっぽいベースリフが印象的です。
(ウォーキングベースはジャズでよくみられるベースラインで、音が細かく動き回るのが特徴です。)
ウォーキングベースを聴くと、(ジャズ曲はもちろんのこと)マリオパーティのミニゲームのBGMを思い出してしまいます。笑
スケールアウトした音
ウォーキングベースみたいに音符が動き回るリフやフレーズは、和音が白玉※で鳴っている部分に比べるとスケールアウトしても違和感が少ないんですね。
※白玉…全音符や二分音符など長い音符
実際、この部分のウワモノはベースリフをF#マイナースケールで解釈すると、結構スケールアウトしているというか…ポリトーナルみがあるというか。
しかし、その緊張感が逆に良い味を出しています。
特に印象的なのは、ピアノ系音色のフレーズでしょう。
最初の3連符のフレーズは、4音まとまりで似た音型を繰り返しています。
このフレーズには…、異なるマイナー・メジャースケールを交互に乗り換えるルール↓があるのではないか…と思います。(最後の4音は少し違いますけど。)
そして、それぞれのスケールに対応する調号を考えると、#が「3→4→5→4→(3に戻る)」と…シンメトリーを意識している気もします。
次に入ってくる和音系のフレーズ↓は、恐らく全てメジャーコードです。
同じコードをズラしていく平行和音のアイディアですね。
こちらも、スケールアウトしつつも、一定のルールがある形ではないかと。
また、全体的に3連符を主体にしているのでリズムも掴みどころのない感じに聴こえるかもしれません。
最後の方は、トーンクラスターですね。
↑トーンクラスター部分の採譜は、イメージです。
ドラムフィル
Aメロに入る前に印象的なドラムのフィルインが入っています。
往年のジャズっぽいビンテージなドラムサウンド。
カッコいい!
Aメロへ入る直前のブラスの解釈
そして、ドラムフィル上でブラス系音色のフレーズが。
(実際はタイトな3連符ではなく、少し訛った感じのリズムになっているように聴こえます。)
僕はこのフレーズ部分だけ、Bメジャー(+ブルーノート(D♮))(#×5)に聴こえるんですよね。
Aメロへ入るコードの流れは
B → F#
Ⅳ → Ⅰ
です。
したがって、Bの上に立ち上がるスケールとして、モーダル・インターチェンジ的発想でねじ込まれているのかもしれません。
Aメロ1:F#メジャー(#×6)
F#メジャー(#×6)へ。
Aメロでも、引き続きウォーキングベース。
Aメロのコード進行
コード進行の大枠は
F# | A#/D | A#m/D# | C#m7 – F#7 |
BMaj7 – C#7/B | A# – D#m | BMaj7 – C#7/B | D – E |
F# | A#/D | A#m/D# | C#m7 – F#7 |
BMaj7 – C#7/B | A# – D#m | BMaj7 – C#7 | A#7 |
みたいな感じですかね。
(「A#/D」は、厳密には「A#/Cダブルシャープ」です。)
ディグリーネームで表すと
Ⅰ | Ⅲ/#Ⅴ | Ⅲm/Ⅵ | Ⅴm7 – Ⅰ7 |
ⅣMaj7 – Ⅴ7/Ⅳ | Ⅲ – Ⅵm | ⅣMaj7 – Ⅴ7/Ⅳ | ♭Ⅵ – ♭Ⅶ |
Ⅰ | Ⅲ/#Ⅴ | Ⅲm/Ⅵ | Ⅴm7 – Ⅰ7 |
ⅣMaj7 – Ⅴ7/Ⅳ | Ⅲ – Ⅵm | ⅣMaj7 – Ⅴ7 | Ⅲ7 |
大きく分けると8小節2回しの構成。
前4小節が、Ⅰ→Ⅲ→Ⅳm~みたいなパターンの変形。
後ろ4小節が、王道進行(Ⅳ-Ⅴ-Ⅲm-Ⅵm)の変形ですかね。
ひと回し目最後の「♭Ⅵ – ♭Ⅶ」は、わりとよくある流れで、ダイアトニックコード表のここら辺↓から解釈できそうなやつです。
しかし、この曲の場「♭Ⅵ – ♭Ⅶ」を入れた理由は、おそらくAメロ2で「♭+3の転調」をスムーズに行う伏線的な意味合いもあると思います。
Bメロ1:Aメジャー(#×3)
Bメロで「♭+3の転調」をして、再び調号に#が3つ付くAメジャー(#×3)へ。
調号の#と♭が3つ変化する関係にあるキー同士は、一方のキーの3度に当たる音の使い方を工夫すると、比較的スムーズに行き来できるので、使い勝手の良い転調だったりします。
実際、僕が独自に収集している転調の種類のデータ↓でも「#+3の転調」と「♭+3の転調」は多い傾向があります。
Bメロのコード進行
Bメロのコード進行は、
Bm7 – D/E | A – E/B | G#m7(♭5) – C#7 | F#Maj7 – A |
Em7 – A7 – | D – G | F#m7 |D/A – Bm7 | A~
だいたいこんな感じで、2小節ごとに「ツーファイブワン」を軸に作られていると思われます。
↓一括でディグリーネームに変換しても、少し分かりにくいかと思いますが…
Ⅱm7 – Ⅳ/Ⅴ | Ⅰ – Ⅴ/Ⅱ | Ⅶm7(♭5) – Ⅲ7 | F#Maj7 – Ⅰ |
Ⅴm7 – Ⅰ7 – | Ⅳ – ♭Ⅶ | Ⅵm7 |Ⅳ/Ⅰ – Ⅱm7 | Ⅰ~
↓2小節ごとに分解して、2小節目の1つ目のコードを「Ⅰ」と考えてディグリーネームに変換すると…
Bm7 – D/E | A – E/B |
(Ⅱm7 – Ⅳ/Ⅴ | Ⅰ – Ⅴ/Ⅱ |)
G#m7(♭5) – C#7 | F#Maj7 – A |
(Ⅱm7(♭5) – Ⅴ7 | ⅠMaj7 – ♭Ⅲ |)
Em7 – A7 – | D – G |
(Ⅱm7 – Ⅴ7 – | Ⅰ – Ⅳ |)
ツーファイブワンに準ずる流れの連結だと分かりやすいはずです。
ツーファイブワン
ツーファイブワンは、最も基本的で最も力強いコードの流れ(Ⅱm7-Ⅴ7-Ⅰ)で、特にジャズではツーファイブワンに準ずる流れの上でアドリブ演奏をする曲が非常に多いです。
Bメロのメロディメイク
Bメロ頭のメロディ「しあわせ(F#→G#→A#→B)」は、Aメジャー(#×3)で解釈すると「ラ→シ→ド#→レ」。
F#メジャー(#×6)の「ド→レ→ミ→ファ」にも聞こえる流れです。
一瞬予想を裏切られたような不思議な感覚になりませんか?
調性を錯覚させるためのトリッキーなメロディメイクではないかと感じます。
サビ1:F#メジャー(#×6)
サビでは「#+3の転調」をして、再びF#メジャー(#×6)へ。
サビのメロディ
サビ頭のメロディは、半音階を駆け上がる形+シンコペーション。
コードは多分こんなかんじ
しかも一音ずつ別のコードが割り当てられており、強烈なインパクトとキャッチーさがありますね!
サビのコード進行
コードは、概ねこんな感じだと思います。
F# | A# | G#m/D# | A#aug/C# |
BMaj7 – A#m | D#m – G#7 | BMaj7 | C#7 |
F# | A# | G#m/D# | A#aug/C# |
BMaj7 – A#m | D#m – G#7 | BMaj7 | C#7 |
BMaj7 | A#m | G#m | Daug/C# |
F#
Ⅰ | Ⅲ | Ⅱm/Ⅵ | Ⅲaug/Ⅴ |
ⅣMaj7 – Ⅲm | Ⅵm – Ⅱ7 | ⅣMaj7 | Ⅴ7 |
Ⅰ | Ⅲ | Ⅱm/Ⅵ | Ⅲaug/Ⅴ |
ⅣMaj7 – Ⅲm | Ⅵm – Ⅱ7 | ⅣMaj7 | Ⅴ7 |
ⅣMaj7 | Ⅲm | Ⅱm | ♭Ⅵaug/Ⅴ |
Ⅰ
全体的に、なんとなくAメロと似ていますね。
全体的に曲の情報量が多いので、似たコード進行を使って曲としての統一感を出していく狙いがあるのでしょうか。
サビの尺
『ミックスナッツ』のサビは、20小節(+2小節)あります。
基本的に、多くの音楽は2の累乗数の小節数※で展開していきます。
※1,2,4,8,16,32…
小節数を2の累乗数から変化させる手法はリスナーの予想を裏切る効果があり、しばしば使われます。
この曲の場合、一般的な尺である16小節に+4小節されている形なので、1回目だけで結構なボリュームを感じますよね!
Aメロ2
Aメロ2前半:F#メジャー(#×6)
1回目とは打って変わって、ハーフタイムのノリに。
トラップ系っぽい質感を取り入れたトレンディなアレンジになっています。
トラップ系
トラップは、ヒップホップのサブジャンルです。
しかし、その特徴的な高速のハイハットの刻みと太いベースのロー感は多くのジャンルに波及し、2010年台後半から現在に至るまでトレンドのひとつになっています。
そして、コード進行自体もAメロ1と全く同じではなく細かなアレンジが加えられています。
Aメロ2後半:Aメジャー(#×3)
ここでF#メジャー(#×6)からAメジャー(#×3)へ「♭+3の転調」をしています。
面白いタイミングでの転調ですね。
前述の通り、転調直前のF#メジャー(#×6)から見た「♭Ⅵ – ♭Ⅶ」の流れは、Aメジャー(#×3)視点で見れば「Ⅳ – Ⅴ」になります。
Aメロ1で張ったコード進行の伏線をココで回収していくわけです。
そして、「煎られ 揺られ 踏まれても~」のメロディは、1回目には無い新しいモチーフ。
ボコーダー
Aメロ2後半からハモリにボコーダーで加工された声が使われていますね。
こんな感じで、細かいところまで丁寧に作り込まれているのが分かります。
Bメロ2:Aメジャー(#×3)
Aメロ2後半で転調したので、1回目と違いBメロ2入り部分では転調していません。
…ただ、転調しているようにも聴こえます。
というのも、先ほども説明したBメロ頭のメロディ…「うまれた(F#→G#→A#→B)」は、F#メジャー(#×6)の「ド→レ→ミ→ファ」とも聞こえる流れになっているので、転調したかのように聴こえます。
むしろ、ここから逆算してBメロを作ったのかもしれません。
スタッター
それから、ところどころスタッターなフィルインが入っていてカッコいいです。
こんな感じ↑で手軽に音素材を切り刻んだ感じにできるプラグイン(ソフト)もあったりします。
サビ2:F#メジャー(#×6)
再び「#+3の転調」をして、F#メジャー(#×6)へ。
2回目ですが、ラスサビ。
1回目との違い
サビ2は、おおよそサビ1の倍の尺(2回し)あります。
ひと回し目が20小節、2回し目が更に拡張されて24小節+2小節。合計で46小節。
曲中2回しかサビが無いとは言え、ヴォリューム感はたっぷりです。
また、メロディの細かい部分が変化していたり、ドラムがダブルタイム(倍テン)っぽくなったり…、最後までジェットコースターみたいなアレンジですね。
最後の高音
そして、曲の最後…
…hihiA#(A#5)ですか。
男性だとオクターブ下のhiA#(A#4)でも出すのが難しい人は多いと思います。笑
ピッチシフター的なやつを使っている可能性も無きにしも非ず…ですけど、おそらく実際に歌って出してるんでしょう。恐ろしいです。笑
むしろ、この曲のメインのキーがわざわざF#メジャー(#×6)(弦楽器奏者にとって弾きにくい&楽譜も変化記号だらけで読みにくい)なのは、ラストの超高音を使うためなのかもしれません。
開放弦がほぼ使えないので弾きにくい。
全体的な感想・分析
転調の回数
転調の回数 | 転調の間隔 | キー | セクション |
F# マイナー(♯×3) | イントロ | ||
1 | ♯+2の転調 | ↓ | |
B メジャー(♯×5) | イントロ | ||
2 | ♯+1の転調 | ↓ | |
F#/G♭ メジャー(♯・♭×6) | Aメロ1 | ||
3 | ♭+3の転調 | ↓ | |
A メジャー(♯×3) | Bメロ1 | ||
4 | ♯+3の転調 | ↓ | |
F#/G♭ メジャー(♯・♭×6) | サビ1・Aメロ2前半 | ||
5 | ♭+3の転調 | ↓ | |
A メジャー(♯×3) | Aメロ2後半・Bメロ2 | ||
6 | ♯+3の転調 | ↓ | |
F#/G♭ メジャー(♯・♭×6) | サビ2 |
転調の回数は、6回ですかね。
(Aメロ1直前の2小節ブラスフレーズを転調と解釈しなければ、5回)
全体的な印象としては、比較的スムーズに感じる「#+3の転調」と「♭+3の転調」を使っています。
以前のCry Baby(12回)に比べると少ないですけど、一般的な曲と比べると少し多いかもしれません。
加えて、Bメロのツーファイブ連結部分など、調性が曖昧に感じるギミックも相まって「実際に転調している回数※以上に”転調している感“があるのではないか」と思います。
(※解釈次第な気もしますけど)
残念な点:音圧戦争の弊害
…『ミックスナッツ』は、緻密に組み上げられた素晴らしい楽曲だと思います。
ただ…、だからこそ、この曲に対して残念に感じた部分があります。
それは、いわゆる「”音圧”が高すぎる点」です。
そして、これはこの曲に限った話ではありません。
YouTubeやSpotifyなど主要な配信プラットフォームが、ラウドネスノーマライゼーションを導入して数年(10年近く)経つ2022年。
…あらゆる素晴らしい曲のサウンドが、未だに不必要なマキシマイズによって損なわれ続けているのは非常に残念です。
(YouTubeの場合は、画面を右クリックして出てくるメニューから「詳細統計情報」を選択し、Volume/Nomalize項目を見ると「どれだけボリュームを下げられているか」を確認できます。)
実際に、『ミックスナッツ』のMVを確認してみると
100% / 49% (content loudness 6.2dB)
つまり、音量を49%下げられている格好です。
メジャーな曲に携わるエンジニアの方々がこういった内容を知らないとは考えにくいので、『「CDで少し派手に聴かせたい」みたいな時代錯誤な理由のためではないか…』と思ってしまいます。
…少なくとも僕は、未だにこんなダイナミクスを潰した音源に仕上げる必要性があるとは感じません。
ラウドネスノーマライゼーションの話は、まだまだ音源制作などに携わる方以外には認知されていない部分も多い気がします。
気になった方は、是非ご自身でも情報を調べてみて欲しいです。
参考文献・URL
まとめ
ということで、今回はOfficial髭男dismの『ミックスナッツ』の感想と楽曲分析でした!
専門的な部分が分からなくても、曲が素晴らしいのはもちろんですが…
少しでも楽曲を深く味わう手助けができたなら幸いです。
では!(๑˃̵ᴗ˂̵)و
分析動画も作りました!
ヒゲダンファンの方はこちら↓もオススメです!