このブログのいくつかの記事を見れば分かると思いますが、僕は転調している曲が好きです。笑
…ということで!
今回は、TVアニメ『東京リベンジャーズ』主題歌 Official髭男dism『Cry Baby』の楽曲分析をしていきたいと思います!
では、いってみよう!(๑˃̵ᴗ˂̵)و
※分析は僕の耳で「多分こうなっているだろう」と推測・解釈したものです。
もしかしたら間違っている可能性もあるので、ご了承ください。
※短調のダイアトニックコードも、平行調の長調のディグリーにしています。
たとえば、CメジャーキーでもAmキーでも、AmコードはⅥmとしています。
※イタリア式表記(ドレミ…)で書かれた音は”移動ド“、英・米式表記(CDE…)で書かれている音は”固定ド“です。
Official髭男dism『Cry Baby』
動画でより詳細な分析もやったので、併せてどうぞ。
イントロ:Gmキー(♭×2)
イントロは、マーチングバンドっぽいアレンジです。
そして、全体的にイコライジングされており、古びたラジオから聴こえる音のようですね。
また、このイントロのフレーズは、「帝国のマーチ(ダースベイダーのテーマ)」を思わせる
独特の…いわばダークサイド的「ファ」の使い方です。
「ファ」は、取り巻く状況によって与える印象ががらりと変わる面白い音だと思います。
Aメロ1:Fmキー(♭×4)
Aメロ1へ入る部分で、Fmキー(♭×4)へ「♭+2の転調」をします。
Aメロ1:リズムについて
イントロの8分音符で刻めるスクエアのノリから、
Aメロ1ではシャッフルの(3連符を主体にした)ノリに切り替わっているのも注目です。
近年、昔に比べてシャッフルとスクエアのノリが1曲中に混在した曲が増えてきた印象がありますね。
Aメロ1:コード進行について
そして、Aメロ1のコード進行は概ね
Fm → Dm7(♭5) → D♭ → Gdim → Edim → C
みたいな流れの繰り返しだと思います。
Dm7(♭5)は、Fメロディックマイナーのダイアトニックコードからの響きだと解釈しました。
僕は、このDm7(♭5)…つまり#Ⅳm7(♭5)のサウンドが大好きで、このコードに類似する響きが入っているだけでかなりテンションが上がってしまいます。
自分の曲にもよく使います。笑
KEGON – Music score(pdf)
そして、Gdim → Edim → Cの流れは、ドミナント機能を持つⅢ7(♭9)(この部分ではC7(♭9))の響きを分解したと考えました。
Ⅲ7は、比較的よくフレーズの最後の部分に用いられる響きです。
Bメロ1:Dmキー(♭×1)
Bメロ1:Aメロ1との接合部分について
Bメロ1へ向かうでDmキー(♭×1)へ「#+3の転調」。
まず、転調部分のC7の響きは、Fmキー(♭×4)のⅢ7であり、Dmキー(♭×1)のⅤ7です。
つまり、共通のドミナント機能を持つコードになっています。
Bメロ1:リズムについて
次に、Bメロ1のリズムに注意してみます。
前半部分がスクエア(でも伴奏は少しシャッフル?)で、サビへ向かってシャッフルに戻っていきます。
細かくノリが切り替わる面白いギミックですね。
Bメロ1:サビへの転調について
そして、サビへ向かうA7は、Dmキー(♭×1)のⅢ7であり、Dメジャーキー(#×1)のⅤ7です。
つまり、先ほどと同じく共通のドミナント機能を持つコードを使った「#+3の転調」になっています。
「#+3の転調」はこの手法で移動できるので、かなり使い勝手の良い転調と言えそうです。
実際、僕が独自で収集しているデータ↓と照らし合わせても使用頻度が高い転調だと言えそうです。
それから、Bメロ最後の音とサビ冒頭の音が“固定ドで見て同じ音”なのも面白いです。
転調の手法としてはコモン・トーン・モジュレーションになるのかなと思います。
詳しくはこちら↓
サビ1:Dメジャーキー(#×2)→D♭メジャーキー(♭×5)→B♭メジャーキー(♭×2)
サビの構成としては、4小節×4段が2回し+大サビ的なセクションが8小節で、合計40小節あります。
サビ1:冒頭のコード進行について
まず、冒頭は大まかに捉えるとⅠ-Ⅶm7(♭5)-Ⅲ7-Ⅵm…みたいなコード進行の流れで始まります。
このコード進行は、カノン進行の定番変形パターンで色々な曲に使われています。
サビ1:転調部分について
次に、この曲はサビのセクションの途中でも転調する珍しい構成になっています。
土台となるアイディアとしては、前半部分がⅥmから下行するクリシェ、転調部分が転調後のD♭メジャーキー(♭×5)へのツーファイブ(E♭m7-A♭7)からの変形ですかね。
おそらくこんな感じ。↓
前半部分はⅥmから下行するクリシェっぽさを感じさせつつも、基本的に転調部分に向けてベースラインが上昇していく流れ。
転調部分のツーファイブのツーの部分は、フュージョン・コード(♭Ⅶ/Ⅰ)に近い響きを持つB♭m7/E♭あたりで代理している気がします。
※詳しくは↓
そして、転調前のDメジャーキー(#×2)から転調先にあたるD♭メジャーキー(♭×5)への転調の間隔は、「#+5の転調」で、いわゆる半音下のキーへ行っています。
「#+5の転調」は、僕が独自で収集しているデータと照らし合わせると比較的珍しい転調だと言えそうです。
サビ1:最後の部分の響きについて
そして、サビの最後の部分は、ピカルディの3度的なサウンドでB♭メジャーキー(♭×2)へ「#+3の転調」していると解釈しました。
元々はクラシック音楽でよく使われるイメージ。
加えて、そこから更にAメロ2へ向かって「♭+2の転調」です。
2小節だけなので、転調と考えなくても良いと思う方もいるかもしれません。
しかし、曲の冒頭も(♭×2)→(♭×4)の流れだったので転調と考えた方が、曲構成としての整合性がある気がします。
Aメロ2:Fmキー(♭×4)
Aメロ2は、後半からAメロ1とは違う流れになります。
「相手が何であれ…」のところのベースがカッコいい。
それから、「忘れるな忘れるなと…」のあたり。
おそらく、地声と裏声を高速で切り替える「ヨーデル」という難しい歌唱法です。
超絶技巧をAメロの変形した最後にサラッと差し込むあたり、粋な感じがします。
どうしてゾーン:Fmキー(♭×4)
ここは少し変則的なセクションなので、仮に「どうしてゾーン」と呼ばせてください。笑
「どうしてゾーン」は激しく加工されたヴォーカルが使われた半ば間奏的なセクションだと思います。
間奏:Fmキー(♭×4)
再びイントロのモチーフを使った間奏に入ります。
しかし、イントロのGmキー(♭×2)とは違い、キーはFmキー(♭×4)です。
ドラムがハーフタイムのアクセントでリズムを刻む、かなりヘヴィなセクションになっています。
そして、最近あまり聴かなくなった気もするワブルベース系の音色なども貪欲に取り入れたであろう攻撃的なサウンドになっています。
Dream Theaterからの影響について
それから、そこはかとなくDream Theaterを感じる気がします。
「…でも、これは…僕がDream Theater好きなのでそう感じるだけかもしれない…」
と思っていたら…、ヴォーカルの藤原聡さんもDream Theaterが好きみたいです。笑
僕も『Metropolis, Pt. 1: The Miracle and the Sleeper』は好きで、昔耳コピして楽譜に書き起こしたこともあります。笑
やはり、どこかしら影響はあるのではないでしょうか。
Bメロ2:Dmキー(♭×1)
Bメロに入るときに再び#+3の転調でDmキー(♭×1)へ。
Bメロ2:”イントロ及び間奏モチーフ”との関係性について
この辺りで気づく方も多いと思いますが…
“イントロ及び間奏モチーフ“と”Bメロのモチーフ“は、リズムや音の流れから同一のモチーフから展開されたメロディだと考えられます。
いわゆる移旋と呼ばれる手法だと思います。
曲構成の意図を考察
では、なぜ「このようなメロディの作りになっているか?」を考察したいと思います。
この曲は一般的なポップス曲に比べると情報量が比較的多いです。
しかし、それなりにキャッチーでコンパクトにもまとまっています。
この2つの状態が両立しているのは、「ある部分では一般的なポップス曲に比べて情報量を削っているから」だと思います。
では、どこで情報量削っているかというと、主に「サビの回数」と、「モチーフの数」です。
一般的なポップス曲のサビは3回あるものが多い一方、この曲は1曲中で2回しかありません。
また、実質核となるモチーフ・アイデアは3つ、4つくらいだけだと思います。
つまり、ここら辺の情報量の抜き差しでバランスをとっているのではないかな…と思います。
Bメロ2:後半部分について
そして、Bメロ2の後半です。Bメロ1に比べて後半の尺が伸びていますね。
特にこの部分などは、ディズニー映画『キノピオ』の『星に願いを』彷彿とさせる美しいメロディです。
(おそらく、なんとなくの音の流れと「ド#」の音がそう感じさせるのではないかと思います。)
サビ2:Dメジャーキー(#×2)→D♭メジャーキー(♭×5)→Eメジャーキー(#×4)→D♭メジャーキー(♭×5)→B♭メジャーキー(♭×2)
最後のサビへもDmキー(♭×1)からDメジャーキー(#×2)へ「#+3の転調」です。
(サビの最後の部分と同じく、Bメロ2もsus4で係留した後ピカルディ終止っぽいサウンドでが終わっています。
したがって、厳密にはBメロ2の一番最後でDメジャーキー(#×2)へ「#+3の転調」していると考えた方が、一貫性がある気がします。)
Bメロ2:大サビ部分の転調について
サビ1よりさらにヴォリュームアップしたサビ2。
大サビ部分が拡張され、8小節だけEメジャーキー(#×4)へ行って帰ってきています。
最後のダメ押しの盛り上げポイントですね。
“行き”はおそらくイントロとBメロでもやっていた移旋的な発想で
“帰り”はこんな感じ↓でツーファイブの変形した発想で移動しているのではないかと。
サビ2:最後の部分について
そして、最後の音は再びピカルディ終止的なサウンドでB♭メジャーキー(♭×2)へ行って終わります。
つまり、最初と最後の調号は同じだと解釈しました。
サビ1の終わり部分と同じく、転調と解釈しなくても演奏には大きな支障が無いと思います。
しかし、こう解釈した方が楽曲の構成として筋が通っている気がします。
そういえば、前に分析したLiSAさんの『炎』も最初と最後の調号が同じでした。
転調をたくさんしていても、こういった部分から作曲者の楽曲構築への美学が汲み取れる気がします。
まとめ
というわけで、転調の回数は恐らく12回だと思います。
転調の回数 | 転調の間隔 | キー | セクション |
G Minor(♭×2) | イントロ | ||
1 | ♭+2の転調 | ↓ | |
F Minor(♭×4) | Aメロ1(0:09~) | ||
2 | ♯+3の転調 | ↓ | |
D Minor(♭×1) | Bメロ1 (0:28~) | ||
3 | ♯+3の転調 | ↓ | |
D Major(♯×2) | サビ1 (0:48~) | ||
4 | ♯+5の転調 | ↓ | |
D♭ Major(♭×5) | サビ1 (0:57~) | ||
5 | ♯+3の転調 | ↓ | |
B♭ Major(♭×2) | サビ1 (1:33~) | ||
6 | ♭+2の転調 | ↓ | |
F Minor(♭×4) | Aメロ2~間奏 (1:35~) | ||
7 | ♯+3の転調 | ↓ | |
D Minor(♭×1) | Bメロ2 (2:24~) | ||
8 | ♯+3の転調 | ↓ | |
D Major(♯×2) | サビ2 (2:48~) | ||
9 | ♯+5の転調 | ↓ | |
D♭ Major(♭×5) | サビ2 (2:59~) | ||
10 | ♭+3の転調 | ↓ | |
E Major(♯×4) | サビ2 (3:33~) | ||
11 | ♯+3の転調 | ↓ | |
D♭ Major(♭×5) | サビ2 (3:43~) | ||
12 | ♯+3の転調 | ↓ | |
B♭ Major(♭×2) | サビ2 (3:50~) |
ちなみに、僕は主題歌を務めているTVアニメ『東京リベンジャーズ』をチェックしていないので詳しくは分かりません。
しかし、あらすじを見ると
2017年。26歳のフリーターとして底辺の生活を送っていた花垣武道は、中学時代の彼女だった橘日向が弟の直人とともに暴走族東京卍會(東卍)の抗争に巻き込まれ死亡したニュースを目にする。
翌日、バイト帰りに何者かによって電車のホームへと突き落とされた武道は、轢死を覚悟した瞬間に人生の絶頂期だった12年前の2005年にタイムリープする。
東京卍リベンジャーズ
「この12と転調回数を重ねているのではないかな?」と感じたりはしました。
さいごに
分析してみると音楽理論的なマナーを守りつつも、色々な要素を組み合わせて斬新な曲を組み立てている様子が感じられたのではないでしょうか。
音楽理論的な部分が分からなくても、曲が素晴らしいのはもちろんですが…
少しでも楽曲を深く味わう手助けができたなら幸いです。(๑˃̵ᴗ˂̵)و
追記:
まさかまさか…Twitterでご本人にいいねを頂きました。汗
これからも活動応援しております…!
動画ではさらに深く分析したので、こちらもどうぞ。
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では!