巧みな転調!緻密な曲構成!『米津玄師 – Pale Blue』の感想・楽曲分析【TBS金曜ドラマ「​リコカツ」主題歌】

楽曲分析・音楽レビュー
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今回は、TBS金曜ドラマ「​リコカツ」主題歌 
米津玄師さんの『Pale Blue』の楽曲分析をしていきたいと思います!

では、いってみよう!(๑˃̵ᴗ˂̵)و

※分析は僕の耳で「多分こうなっているだろう」と推測・解釈したものです。
もしかしたら間違っている可能性もあるので、ご了承ください。

※短調のダイアトニックコードも、平行調の長調のディグリーにしています。
たとえば、CメジャーキーでもAmキーでも、AmコードはⅥmとしています。

※イタリア式表記(ドレミ…)で書かれた音は”移動ド“、英・米式表記(CDE…)で書かれている音は”固定ド“です。

採譜してしまった

メロディだけのつもりで曲を採譜していたら、勢い余ってほぼ全パート採譜してしまいました。笑

譜面を確認したい方はどうぞ。

動画の中では、テロップを入れつ分析しています。

(採譜はところどころ適当なので、確実に合っているとは思わないでください。)

BPM(テンポ)について

おそらく、88.1 BPMを基本として0.1のオーダーで所々微妙に変化しています。

微妙な変化なので、今回採譜した楽譜に書き込んだように小節単位で変えているのか…、なだらかに変わるようにテンポカーブのオートメーションを書いているのか…そこらへんの細かい指示は分かりません。

ただ、DAWに貼り付けてグリッドに合わせてみると、最後まで一定ではなく、かといって楽器隊のリズムが大きく揺れているわけでもないです。

したがって、所々で変化させているのはほぼ確実だと思います。

  

普通に聴いていると気づきにくい仕掛けですね。
ただ、意外とやっている曲はやっています。

たとえば、X JAPANの『』は、後半のドラムソロあたりで恐らくBPMを0.5下げてまた戻しています。

※採譜した動画内には「0.5上げている」と書いてあります。
しかし、記憶違いをしていたようで、昔に採譜した譜面を改めて確認したら0.5下がっていました。

アレンジについて

近年の米津玄師さんの楽曲には坂東祐大さんがアレンジャーとして参加しているようです。

坂東祐大さんの音楽ルーツにも着目してみると、近年の米津さんの楽曲のアレンジ内容や影響をより深く理解できるかもしれません。

曲構成

大サビ

まず、曲構成としは大サビ的なセクションから始まっていきます。

サビ始まり(歌はじまり)は、ポップスの定石ですね。

 

この部分、3回目の「ずっと」の「」がhiC#で曲中の最高音になります。

808ベース(ヤオヤベース)

おそらく、808ベースのサウンドが使われており、モダンな雰囲気を後押ししています。

808ベースは、伝説のドラムマシンRolandのTR-808のキックをサンプリングして作られた(もしくはそれに似たようなサウンドの)ベース音です。

808ベースのサウンドに限らず、RolandのTR-808は、音楽史を変えた偉大な楽器です。

通常のベースよりもさらに太く、固いサウンドが特徴です。

現代の音楽には欠かせない808ベースの太いロー感のあるサウンド。

一時(今も?)、洋楽チャートで細かく刻まれたハイハットや、808ベースっぽい低音が入っていない曲を探す方が難しいレベルでした。

間奏1

儚げなピアノが印象的なセクションです。

若干リディアン・モードの風味を感じるフレーズですね。

Aメロ1

転調

♭+2の転調」をしてEmキー(#×1)のAメロ1へ。

転調の発想としては、「直前に2拍の無音を挟む」+「同じMaj7コードの平行移動」あたりでしょうか。

コード進行

おそらく、テンションを使ったコードやハイブリッド・コードが含まれたオシャレなコード進行になっています

(具体的なコード進行は動画の方が確認しやすいと思います。)

コード/スケール名を逆引き検索 O-TO【音楽理論ウェブアプリ】
選んだ構成音に対応するコード・ネームやスケール名を検索できるアプリです。コードの特徴など、詳細情報も確認できます。
ドラムのリズムパターン

Aメロ1の後半から入ってくるハイハットシンバルの刻み。

ハイハットシンバルのリズムは、曲中を通して比較的トリッキーな動きをしています。

完全に譜面に決められた通りに演奏されているのか、若干即興的なフィーリングも含まれているのか。少し気になります。

Bメロ1

転調

繰り返しGマイナーキー(♭×2)とEマイナーキー(#×1)を行き来する構成のBメロ。

この「♭+3の転調」と「♯+3の転調」は、米津玄師さんの曲の中で数多く使われている印象です。

ただ、そもそも使い勝手が良いので、米津さんの曲に限らず全体的によく使われる部類の転調だと思います。

2022-4-15のデータ。最新のデータは直接共有データベース↓を見て下さい。

コード進行

おそらく

Aメロー「♭+3の転調」→Cm7 → F7(♭9) → B♭/D → Gm7
ー「#+3の転調」→ Gsus2/A → F#dim7/B → Em → D#dim7 → Dm7 → C#7
ー「♭+3の転調」→Cm7 → F7(♭9) → B♭/D → G7
ー「#+3の転調」→ Am7 → G/B → D#dim7 → Em7→ CMaj7 → C#dim → Dsus4

こんな感じで

メインとなる「Cm7 → F7(♭9) → B♭/D → Gm7」みたいな流れは

Cm7 → F7 → B♭
Dm7→ G7 → C

というツーファイブ2つの変形合体みたいな発想だと思います。

 

また、転調部分にGsus2/Aみたいなsus系の響きを持ってきている気がします。
これもスムーズに音をつなぐ工夫かと思います。

 

そして、サビ前のコード進行(エンドロールの途中で~)はおそらく

ー「#+3の転調」→ Am7 → G/B → D#dim7 → Em7
→ CMaj7 → C#dim → Dsus4

みたいな感じで、ディミニッシュコードの使い方から近年の米津さんっぽさを感じます。

 

サビ前の高音のピアノコードはおそらくFadd9→Cadd9→G/Bみたいな感じかなと思います。

コードの平行移動…一旦トニックに戻っている…

など色々な解釈ができると思いますけど、役割としては”サビへのお膳立てとしてのドミナント“だと思います。

サビ1

16分裏のシンコペーションを積極的に取り入れたメロディになっていたり、ドラムが随所で3連を取り入れたパターンを叩いていたりします。

そういったリズムの多層性が、満足感のある聴きごたえに繋がっていると感じます。

 

モチーフ冒頭が「あなたが(ラシド)」そして、「はなさき(ドレミファ)」とスケールを駆け上がる形のメロディになっているのも注目です。

大サビ2

大サビ1に比べて、ドラムの手数が増えたり対旋律が入ったりして、よりゴージャスになっています。

メロディの頭の音について

僕調べの情報↓では、メロディの約9割は「ド、ミ、ソ、ラ」から始まります。

その視点で考えると

Aメロの始まりが「ドシラ
Bメロの始まりが「ファソラ
サビの始まりが「ラシド
大サビの始まりが「シド

となっており
Bメロ大サビのモチーフは、それぞれ「ファ」や「」が冒頭にきており、珍しいと感じます。

それから、全て順次進行で、それぞれ冒頭のピッチクラスが分散していますね。

間奏2

間奏1には無かった、Aメロ2へ入る直前4拍目ののスネアドラムのクローズドリムショットが印象的です。

Aメロ2

A1とコード進行が微妙に違う上に、小節数は半分の8小節になっています。

Bメロ2

こちらも1回目のBメロとは、微妙にアレンジが異なります。

サビ2

このサビへ入る部分、Emキー(#×1)からF#mキー(#×3)への「#+2の転調」が最後の12回目の転調になります。

大サビ3

3回目の大サビ。

6/8拍子へ切り替わる

次のセクションから6/8拍子になります。
曲の後半に6/8拍子になるのは、以下のような曲でもしばしば見られるアイディアですね。

切り替わる直前に2拍3連を入れて「ここから変わるぞ!」感を出しているのが良いです。

6/8拍子ゾーン

終止ドラマチックな雰囲気で進む6/8拍子のセクションです。

冒頭『「の腕」その「」の中~』が移動ドで「シド」なので、モチーフは大サビから展開されたものだと思います。

コード進行

王道進行(Ⅳ→Ⅴ⇒Ⅲm⇒Ⅵm)を基盤に展開されたと思われるコード進行で、メロウな印象を受けます。

冒頭は、Ⅳ→Ⅴ7→Ⅲm7→Ⅶm7(♭5)/Ⅵ→#Ⅰdim7みたいな感じですかね。

僕は、Ⅵ7の変形と思われるⅦm7(♭5)/Ⅵみたいな響きが特にグッときます。

4連符(付点16分音符)の使用

終盤、後ろで鳴っているストリングスの旋律は、おそらく4連符(付点16分音符)を多用しています。

 

3まとまりのリズムと4まとまりのリズムを重ねていく、ポリリズム的な手法Foorinのパプリカでも見られますし…

YouTube
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最近は色々な曲で取り入れられるようになってきたアイディアだと思います。

たとえば、ドロップ部分はシャッフルのフィーリングですが、ハイハットがスクエアのノリで鳴っています。

アウトロ

この部分が無くても曲としては成立すると思います。

ただ、この部分があるので別れをテーマとした曲でありながら少し希望を感じられる気がします。

今まで使ってきたモチーフを、それとなく組み合わせた鮮やかなアレンジのアウトロです。

終わり方

最後のFMaj7→G6の流れは、本来はこのあとAに解決すると解決感があります。

したがって、分類としてはドミナントの響きで終わる「半終止」だと考えられます。

完全にスッキリと解決しない状態で終わる部分に、曲のテーマとの整合性を感じますね。

転調について

転調については以下ような感じです。

転調の回数転調の間隔キーセクション
F# Minor(♯×3)大サビ・イントロ
1♭+2の転調
E Minor(♯×1)Aメロ1
2♭+3の転調
G Minor(♭×2)Bメロ1
3♯+3の転調
E Minor(♯×1)Bメロ1
4♭+3の転調
G Minor(♭×2)Bメロ1
5♯+3の転調
E Minor(♯×1)Bメロ1後半
6♯+2の転調
F# Minor(♯×3)サビ1・間奏
7♭+2の転調
E Minor(♯×1)Aメロ2
8♭+3の転調
G Minor(♭×2)Bメロ2
9♯+3の転調
E Minor(♯×1)Bメロ2
10♭+3の転調
G Minor(♭×2)Bメロ2
11♯+3の転調
E Minor(♯×1)Bメロ2後半
12♯+2の転調
F# Minor(♯×3)サビ2~

曲全体で12回転調をしてますね。

Official髭男dismCry Babyといい、最近が数多く転調する曲が増えてきた印象で嬉しいです。

そのうち、12キー全てに転調する曲も作って欲しいです。笑

残念な点:音圧戦争の弊害

…と言った感じで『Pale Blue』は、緻密に組み上げられた素晴らしい楽曲だと思います。

 

ただ…、最後にこの曲に対して残念に感じた部分があります。

それは、いわゆる「”音圧”が高い点」です。
そして、これは米津玄師さんの曲に限った話ではなく、今まで分析してきた曲にも言える内容です。

 

YouTubeSpotifyなど主要な配信プラットフォームが、ラウドネスノーマライゼーションを導入して数年(10年近く)経つ2021年

…あらゆる素晴らしい曲のサウンドが、未だに不必要なマキシマイズによって損なわれ続けているのは非常に残念です。

 

(YouTubeの場合は、画面を右クリックして出てくるメニューから「詳細統計情報」を選択し、Volume/Nomalize項目を見ると「どれだけボリュームを下げられているか」を確認できます。)

実際に、『Pale Blue』のMVを確認してみると

100% / 67% (content loudness 3.5dB)

つまり、33%音量を下げられているはずです。

 

メジャーな曲に携わるエンジニアの方々がこういった内容を知らないとは考えにくいので、『「CDで少し派手に聴かせたい」みたいな時代錯誤な理由のためではないか…』と思ってしまいます。

…少なくとも僕は、未だにこんなダイナミクスを潰した音源に仕上げる必要性があるとは感じません。

参考文献・URL

ラウドネス・ウォー - Wikipedia
書籍「とーくばっく」のご案内
2019年6月リリース「とーくばっく」改訂第3版のご案内です。
音圧戦争から遠く離れてーラウドネスノーマライゼーションの誤解と意義 (1/2) - PHILE WEB
音圧戦争から遠く離れてーラウドネスノーマライゼーションの誤解と意義

まとめ

ということで、今回は米津玄師さんのPale Blueの感想と楽曲分析でした!

専門的な部分が分からなくても、曲が素晴らしいのはもちろんですが…
少しでも楽曲を深く味わう手助けができたなら幸いです。(๑˃̵ᴗ˂̵)و

それから、最後のラウドネスノーマライゼーションの話は、まだまだ音源制作などに携わる方以外には認知されていない部分も多い気がします。

気になった方は、是非ご自身でも情報を調べてみて欲しいです。

 

では!

 

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